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搬送ロボが描く次世代化粧品物流=オルビス/東日本流通センター

2021.06.29

ポーラ・オルビスグループで化粧品の通販、店舗販売を展開するオルビス(本社・東京都品川区、小林琢磨社長)は、「注文した商品を早く使いたい」という顧客ニーズに応えるため、日本全国翌日配達を顧客サービスのひとつに掲げる。1オーダーあたりの品数が平均7~8品に及ぶ商品を、迅速かつ丁寧に届けるために採用したマテハンシステムが、昨年8月に東日本流通センター(埼玉県加須市、写真)に導入した「T-Carry system」だ。稼働開始からまもなく1年を迎え、出荷能力の向上や労働負荷の低減に効果を発揮している。

宅配クライシスを機に自動化に舵を切る

オルビスでは、以前は関東に3つの物流センターを構え、通販商品の全国発送に対応していた。しかし、事業が拡大していく中、特に九州地域以西で商品の配送リードタイムが中一日掛かるといった課題があり、顧客サービス向上とBCPの観点から物流センターの再編に着手した。そして2012年に、同社の物流センターを運営する流通サービス(本社・埼玉県草加市、神田隆社長)の騎西物流センター内に東日本流通センターを、同西宮北物流センター内に西日本流通センター(兵庫県西宮市)をそれぞれ開設。静岡県で東西を区切り、東日本と航空便対応の沖縄県を東日本流通センターが、それ以外を西日本流通センターが担当し、15時までの翌日指定注文の翌日配達に対応している。

東日本流通センターは現在、約1100SKUの商品を取り扱い、出荷件数は1日あたり約1万件にのぼる。同センターでは従来、品質と出荷能力の向上を両立するため、デジタルピッキングシステムやピッキングカート、デジタルアソートシステムなどを組み合わせた、ハイブリッドなピッキング、仕分けシステムを構築し、確実に商品を届けられる体制を作り上げてきた。しかし、宅配クライシスが叫ばれるようになると、作業人員の確保に対する不安や宅配コストの増加といったリスクへの備えが必要となり、加えて、将来的な成長戦略を見据え、現状の作業ラインでは事業継続が難しくなるのではと判断し、18年、流通サービスと新たな出荷システムの構築を検討するプロジェクトを立ち上げた。

小型搬送ロボを検討

オルビスの小川洋之・QCD統括部SCM推進担当部長は「出荷能力を当時比の1・3倍とすることを目標に、省人化とコスト抑制が可能なシステムの構築をお願いした。流通サービスさんとはオルビス創業以来の付き合いで当社の出荷特性も理解していただいているので、最適な仕組みを提案していただけると期待していた」と話す。依頼を受けた流通サービスは、同じくオルビスの物流システムに携わる椿本チエインと検討を重ね、椿本グループで物流ソリューションを提案、提供する椿本マシナリー(本社・大阪市西区、藤井幸博社長)と共同で、小型自動搬送ロボット(AGV)を活用した出荷システムをオルビスに提案した。流通サービスの佐藤正晃・第1ロジスティクス部第1業務グループ第1システム課課長は「当初は旧来の設備を活かしたシステムを検討したが、省人化がネックとなり、このシステムの提案に至った」と明かす。小川氏は当時の心境について「実現できたら画期的なシステムになると、非常にワクワクしたのを記憶している」と振り返る。プロジェクト開始から約2年半を費やし、AGVを活用した出荷システム「T-Carry system」を開発。同センターの通販出荷ラインに20年8月に納入、稼働が開始した。

1オーダーに1台のAGVを割り当て

「T-Carry system」は、1オーダーに対しAGVを1台割り当て、ピッキングから検品、梱包、封函、発送仕分けまでの一連の作業を自動化した出荷システム。AGVは中国のZhejiang LiBiao Robot製で、制御装置など一部を改良し、ロボットサービスプロバイダのプラスオートメーションより330台導入した。東日本流通センターの通販出荷ラインは、商品をピックする「ピックゾーン」と検品、梱包を行う「検査ゾーン」、自動で封函と送り状の貼付を行う「封函ライン」、発送地別に商品を仕分ける「ソーター」で構成され、それらが1フロアに配置されている。

AGVはピックゾーンと検査ゾーンを循環する走行路を縦横無尽に動き回りながら巡回するが、驚くべきはその静音性だ。小川氏は「AGVは稼働時もとても静かで、大型コンベアなどが稼働していた旧ラインと比較して騒音が大幅に軽減された。作業者にとっても騒音は意外に負担となるため、それが軽減されたことは望ましいこと」と話す。

AGVは自律式ではなく、制御システムからの指示で動く。顧客から注文が入るとその情報が管理室のコンピュータに集まり、制御システムがAGVに対し、商品のピッキング指示を出す。この指示はAGVに送られ、AGVは走行路に埋め込まれたRFID情報を読み取りながら走行する仕組み。指示を受け取ったAGVは商品が置かれているピックゾーンを目指し走行する。椿本マシナリーの北村隆之・SE部長は「一度に多数のAGVが動くためその動きは複雑となるが、AGV同士がぶつかることはない」と話す。

ピッキング~検品までAGVが搬送

ピックゾーンは出荷ラインに22ヵ所設置されており、それぞれに決められた商品を配置しているほか、出荷頻度の高い「A品」はすべてのピックゾーンに配置し、ピッキングが1ヵ所に集中しないように配慮している。また、商品が複数のピックゾーンにまたがる場合は、制御システムが各ゾーンの混雑状況から最も効率良く巡回できる順番を計算し、AGVに指示を出す。指示されたピックゾーンにAGVが到着すると、待機する作業者が画面に表示された内容に基づき商品をAGVのコンテナに投入。投入完了のボタンを押すとAGVは次のピックゾーンへ移動する。

すべての商品のピッキングが完了すると、AGVは検査ゾーンへ移動する。検査ゾーンには30台の検査台が設置されており、ここでも制御システムが各検査台の混雑状況から最適な検査台はどれかを計算し、AGVに指示を出す。AGVが到着すると検品作業者がAGVのコンテナに収められた商品を1個ずつスキャンして検品。欠品などの問題がなければ商品は一つひとつ手作業で梱包され、ローラーコンベアで封函ラインに運ばれる。検査ゾーンでは、検品作業者の腰の高さにAGVの走行路が設置されており、コンテナを持ち上げたりかがんだりすることなく、楽な姿勢で検品が行える設計となっている。

AGVの役割はここで完了となり、次のピッキング指示を受け取ると再びピックゾーンへ向かう。こうしてピックゾーンと検査ゾーンを巡回することで、従来は複数工程にまたがっていた一連の業務のシームレス化を実現している。

処理スピードを速めた封函機

以前は手作業で行っていた封函作業も、ストラパック製の1時間あたり1250ケースの封函ができるよう改良された自動封函機を2台導入し、箱サイズ情報について事前のデータ連携をすることで作業スピードを高めた。東日本流通センターでは、オルビスのほか、同じポーラ・オルビスグループの「DECENCIA」の商品も扱っており、商品を梱包する箱は9種類に及ぶが、この自動封函機はそのすべてに対応しており、作業効率の向上に寄与している。小川氏は「従来の可変対応型機種より倍近いスピードを出すことができると伺っている。ピッキングをいくら自動化しても封函で時間を要しては効率化にならない。そういう意味で非常に満足している」と話す。

封函後は、事前に読み取ったバーコードの情報から送り状を発行、自動貼付して、ソーターにより方面別に仕分けられ、発送される。

コンセプトは「4つの〝ない〟」

このように、出荷ラインを自動化したことで、出荷件数は1時間あたり1800件から2400件にアップし、「処理能力1・3倍」を達成した。また、89人を要していた人員が65人まで圧縮でき、今後の労働力不足対策にも一定のめどがついたという。加えて、ローラーコンベアなどの大型運搬機器が削減できたことで消費電力が約40%削減となった。年間で約15万kwに相当する電力の削減は、CO2の排出削減の観点でも大きく貢献している。

作業者の評判も上々だという。佐藤氏は「従来は歩いてピッキングを行い、コンテナの上げ下げも人力で行っていたのでどうしても作業者に身体的な負荷がかかっていた。それらが自動化されたことで、作業者からは『体が楽になった』という声をよく聞くようになった」との事例を紹介する。また佐藤氏は「『待たせない・歩かせない・持たせない・考えさせない』の『4つの〝ない〟』がこのシステムのコンセプトとなっている」と話す。「この業界は体力的にも厳しい業界と思われており、新しい人材からは敬遠されがちだ。こうした点を改善することも課題だった」と、コンセプトに込めた意味を説明する。

事業の基盤を支える「物流」

「T-Carry system」は規模の大きなシステムだが、レイアウト変更などの融通性も高いと北村氏は語る。「1時間で2400件の処理能力を有する設備となると、かなり大型で可変性が低くなるのが通例だ。それと比べると『T-Carry system』の可変性は高いと言える。確かに旧ラインと比べると低くみえるが、処理能力を考えれば可変性はむしろ高いのではないか」として、今後さらに突き詰めていきたいと述べる。

東日本流通センターでの稼働開始からまもなく1年となる「T-Carry system」だが、AGVの動きや作業者の習熟度も上がり、さらなる生産性の向上につながっているという。オルビスでは、近い将来、西日本流通センターにも水平展開したい意向を持っており、流通サービス、椿本チエイン(椿本マシナリー)と検討を重ねている。小川氏は「自社の通販サイトだけでなく、アマゾンや楽天などを通じたBtoBの出荷も増えており、これらを踏まえ、どういったシステムにすれば良いか考えている」とする一方、「西日本流通センターは東日本流通センターより若干狭いため、どういった設備がベストか、レイアウトも含め検討している」と思案を巡らす。

このように今後も物流の積極改善を考えるオルビスだが、そこには同社の顧客に対する思いが込められている。「どんなに良い商品を作っても、ラストワンマイルで提供できなければ意味がない。物流は事業の基盤を支える大切な部分であり、複数の販売チャネルを抱える当社では顧客体験の源として特に重視している」と物流の重要性を強調する小川氏は「流通サービス、椿本チエインをはじめとする関係各社には素晴らしいシステムを作っていただいた」と評価する。そして「当社は18年より通販会社からスキンケア商品を中心にビューティブランドとしてのリブランディングを行い、変革すべきところにはしっかり変革をして、ビューティブランド企業としての価値を上げていきたいと考えている」と話す。

『人肌感』を大切に

物流業界のみならずさまざまな分野から注目を集めている「T-Carry system」。それを象徴するように、施設見学の要請が多数寄せられているという。

また、日本国内において「BeautyTech」として美容やファッション、ヘルスケア領域の革新的なプロダクトやサービス等を審査・表彰する「第2回Japan BeautyTech Awards 2021」(主催・アイスタイル)では、「T-Carry system」が特別賞を受賞した。「審査員からは、小型のAGVの動く様子が『かわいらしい』との評価をいただいた。情緒的な評価ではあるが、当社はこの『情緒的価値』を大切にしている」と小川氏は話す。「自動化できる部分は徹底した自動化を図る一方、化粧品という商品の特性を考え、丁寧な梱包を心がけている。1オーダー7~8点におよぶ商品を一つひとつ丁寧に梱包する作業では、未だ人の手に勝るものはない。デジタルツールはあくまでも〝手段〟であり、物流施設でも主役は『人』。これからもさまざまな変革がもたらされると思うが、パートナー企業とともに『ここちよい人肌感』も大切にしていきたい」と話す。
(2021年6月29日号)


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