日本郵便、トール社のエクスプレス事業売却
日本郵便(本社・東京都千代田区、衣川和秀社長)は21日、子会社であるToll Holdings(トール社)のエクスプレス事業をオーストラリアの投資ファンドであるAllegro Fundsの傘下企業に譲渡すると発表した。譲渡価額は約7億円(780万豪ドル)。同日開催した取締役会で譲渡を決議し、譲渡契約を締結。今後、オーストラリアにおける外国投資審査委員会などの承認取得など諸手続きを経て、6月末の事業譲渡を予定している。
事業譲渡に伴い、日本郵便では2021年3月期の連結決算で674億円の特別損失を計上する見込み。トール社のエクスプレス事業の連結上の簿価が約690億円(約8億2000万豪ドル)であることから、基本的に簿価と譲渡価額の差額を特損計上する。トール社の主要3事業のうち、フォワーディング事業とロジスティクス事業については、今後も保有を継続していく。
日本郵便は、国際物流戦略の成長・拡大を目指し、15年にトール社を6200億円で買収。以降、様々な施策を通じて事業成長を目指してきたが、豪州経済の減速などにより業績が悪化し、17年3月期決算で約4200億円を減損処理した。その後も経営陣の刷新、人員削減や部門の統廃合などによるコスト削減を中心に業績回復に向けた対策を講じてきたが、20年1月に受けた標的型サイバー攻撃による影響や、新型コロナウイルスの拡大による内外需要の低下で事業環境が悪化していた。
これを受けて、日本郵便はトール社の主要3事業のうち、とくに業績低迷が続いているエクスプレス事業の売却方針を決め、JPモルガン証券と野村證券をフィナンシャルアドバイザーに起用して昨年11月から本格的な検討を開始していた。
トール社のエクスプレス事業は、オーストラリア、ニュージーランド国内におけるネットワークを活用して道路、鉄道、海上、航空による貨物輸送サービスを提供。直近では20年3月期に約84億円(1億豪ドル)、21年3月期第3四半期に70億円(8300万豪ドル)の営業損失(EBIT)を計上しており、業績が大きく悪化していた。
衣川社長「残る事業についての議論はこれから」
21日に開かれたオンラインでの会見で衣川和秀社長は、「トール社のエクスプレス事業はBtoBが中心であり、コロナ禍によるマイナスの影響が大きく、サイバー攻撃などの予期せぬ事態も起きた」と事業譲渡に至った経緯を説明。「事業譲渡が6月末に完了すれば、大きな問題はひとまず終わる。残るフォワーディング事業とロジスティクス事業については、収益改善の余地があると考えているが、コロナ対策やサイバー攻撃対策、エクスプレス事業売却に全精力を費やしてきたため、正直、社内の議論も十分ではない」とした。
ただ、「日本国内は人口減少や郵便物の減少などが続いており、国際物流分野が重要だという認識については変わっていない」と述べ、ロジスティクス事業やフォワーディング事業の基盤がアジア地区であることを踏まえ、日系企業関連の受託を増やしていく方向性を示した。
トール社のロジスティクス事業は、新型コロナ関連の医療物資の取り扱いなどが寄与して黒字化しているが、フォワーディング事業はいまだ赤字が継続している。また、残る2事業の簿価は約1000億円であるのに対し、有利子負債は約2000億円にのぼっており、今後の事業再建についての不透明な状況は依然として続くことになる。
(2021年4月27日号)