ワクチン、“超低温”物流網の課題は…
新型コロナウイルス感染症ワクチンの実用化が見え始めている。政府は米ファイザー、英アストラゼネカと国民全員分のワクチンを供給することで合意しており、日本でもワクチンの保管、輸送に必要な“超低温”物流網の構築が喫緊の課題となりそうだ。ファイザーと独ビオンテックが共同開発したワクチンは、マイナス70℃の超低温での保管が必要。食品を主体とする営業用冷蔵倉庫の中にはマイナス70℃に対応した超低温庫もあるが、ワクチンを保管するにはハードルが高く、「現実的でない」との見方もある。
超低温庫は減少、一定地域に集中
現在までに有効とのデータが得られたファイザー製と米モデルナ製のワクチンは、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンと呼ばれるもので、いずれも低温の温度下での管理が必要となる。ファイザー製については、その有効性を保つためにマイナス70℃で保管しなければならない。
11月13日の衆議院厚生労働委員会では、国土交通省に対し、超低温保管に対応する冷蔵倉庫の保有状況について質問がなされた。国交省は日本冷蔵倉庫協会に照会したうえで、「安全な品質を保ちながら保管対応できるのかも含め、厚生労働省が安全な保管を可能とする条件を検討している」と回答したという。
マイナス70℃に対応した超低温庫を保有する冷蔵倉庫は多くない。日本冷蔵倉庫協会の統計によると、20年6月時点で会員のマイナス50℃以下の所管容積は70万1417㎥。マグロやカツオ、一部のエビなどを保管する超低温庫は静岡や鹿児島地区に集中し、京浜、関西地区にはあまりない。冷蔵倉庫関係者によると、超低温庫は電気代がかかるため、減少傾向にあり、スペースの確保は容易ではなさそうだ。
スペースがあっても保管できない?
医薬品を保管するには、医薬品製造業(包装・表示・保管)や医薬品卸売販売業の許可が必要。災害時など緊急時に、普段は食品を扱う倉庫で医薬品を扱うための対応はまだ整備されていない。このため超低温庫があっても現行規制下では保管できない可能性が高い。また、GMP(医薬品の製造と品質管理に関する国際基準)適合やGDP(医薬品の適正流通基準)対応ができている食品の冷蔵倉庫はほとんどない。
「食品を扱う冷蔵倉庫でのワクチンの保管は現実的ではない」と業界関係者が見る理由のひとつに、料金の問題がある。冷蔵倉庫で保管する食品は単価が安いため、料金は「キロ建て」が採用されている。ワクチンなど医薬品は高額な貨物となり、冷蔵倉庫で破損等があった場合、保管料に比べて弁済額が多額になるリスクがある。
なお、標準倉庫寄託約款(普通倉庫)では、貨物の寄託に際し「貨物の寄託申込当時の価額」を記載した寄託申込書を提出するが、標準冷蔵倉庫寄託約款にはこの規定がない。人口減少で日本の“胃袋”が小さくなる中、食品以外の貨物は冷蔵倉庫にとっては新たなターゲットとなりうるが、現行の約款では高額貨物を扱う際のリスクを回避しにくいという事情もある。
(2020年12月10日号)