〝中小前提〟の業界構造、変化なし=国交省・秡川自動車局長
国土交通省の秡川直也自動車局長は10月28日に会見を開き、全日本トラック協会(坂本克己会長)と連携し、中小事業者の活力ある事業継続を支援すると述べた。また、菅義偉内閣の掲げるデジタル化推進政策を〝追い風〟に受けながら、新型コロナ感染症対応の観点に基づき、IT点呼機器の導入に向けた実証調査を行い、普及を促進する考えを示した。
中小事業者の元気な事業を支援
10月16日に政府が開催した第1回成長戦略会議では「足腰の強い中小企業の構築」が議論の方向性として示された。中小企業の合併促進を図る考えとして受け止める向きもあり、一部では中小が多数を占めるトラックの業界構造に変化が生じるとの見方もある。それについて秡川局長は「中小企業が多いのは日本の特徴であり、個々の企業の足腰が強くなるべきだという考えだと受け止めている」とした。そのうえで、トラック運送事業については、全ト協が9月に日本貨物運送協同組合連合会(日貨協連)の吉野雅山会長を委員長として小規模事業者コロナ時・災害時特別対策委員会を立ち上げたことに言及。同委員会は保有車両20台以下の事業者を対象に経営実態や課題を把握し、小規模事業者が活力ある事業継続を行うため、どのような取り組みが可能なのかを調査・検討していくが、秡川氏は「自動車局としても協力し、施策を通じて中小事業者が元気に事業運営を行えるよう支援していく。委員会メンバー間でも中小の存在を前提とした業界構造に変化が生じるとの認識はない」と語った。
一方、新型コロナによる需要減で景気悪化により経営環境が厳しい中、コンプライアンス違反の可能性があり、コストに見合わない安価な運賃で受注する中小事業者が出てくることには厳しい姿勢で臨む考えを示し、「健全経営の事業者が発展し、悪質な事業者は市場から退出してもらうよう行政として施策を進める。苦しい状況下でも法令遵守に基づく事業運営を行っていただきたい」と念を押した。
IT点呼の導入で運行管理者の負担軽減
国交省では2021年度予算概算要求に盛り込んだ施策として、働き方改革や新型コロナウイルス感染症予防の観点から乗務前後の点呼について、IT機器を活用した非対面での実施を促進する方針。また、AI技術を活用した点呼機器の安全性を確保するため、機器の認定制度を整備する方針を掲げている。ドライバーの疾病・疲労状態を把握可能な機器を導入し、IT化・デジタル化を促進することについて、秡川氏は「菅内閣ではデジタル化の推進を掲げていることも追い風となっている。十分な安全を確保しながら非対面での点呼の導入を図ることで、運行管理者の負担を軽減することが重要だ」と表明。現在要求中の来年度予算を活用し、非対面型点呼の導入促進やAI点呼機器の認定制度構築に向けた実証調査を行うなど環境整備に注力する考えを示した。
トラック実態調査の時期は調整中
10月7日に開催したトラック輸送における取引環境・労働時間改善中央協議会の第12回会合で実施すると発表したトラック輸送の実態調査について、「15年度に実施した輸送実態調査と同様に業界の協力を得ながら実施し、調査結果を踏まえて課題を個別に検討し、改善につなげる」と表明。「ドライバーの労働時間の内訳、荷待ち時間の詳細、荷役作業に関する契約の有無など、長時間労働の実態および原因を明らかにし、取引慣行の改善や労働時間短縮のための検討に役立てることが目的だ」と説明した。
調査の実施時期は現在調整中。厚労省が今月から12月にかけて、改善基準告示の改正作業に必要な運転者の労働時間などの実態調査をトラック、バス、タクシーの3業界を対象として行っていることから、国交省による調査は時期をずらして行う。秡川氏は「業界の実態を正確に把握することが目的であり、調査回答によって処分などを行うものではない」と明言した。
また、運送業界への調査によると2~9月の期間で新型コロナを要因として廃業した事業者はトラックが149社、貸切バスが58社、高速バスを含む乗り合いバスは0社、タクシーが20社だったと報告。バス・タクシーは増加していたが、トラックについてはコロナ以前とさほど変わらず、前年同様の数値だった。
(2020年11月5日号)