ドライバーの価値向上へ=CBクラウド
物流ITベンチャーのCBcloud(CBクラウド、本社・東京都千代田区、松本隆一CEO)は運送業界のデジタル化やIT化を通じ、フリーランスドライバーの価値向上に向けた取り組みを推進している。近年は、大手企業との協働などを通じて多くの新サービスをスタート。今後も、配送マッチングプラットーフォーム「PickGo(ピックゴー)」を中核に、さらなるサービスの拡充を図っていく。
「物流業界の変革」の実現を目指す
CBクラウドは松本氏と同氏の義父が目指す「物流業界の変革」を実現するため、義父が運営する冷蔵・冷凍の貨物事業を引き継ぎ、2013年10月に設立。「より多くのドライバーに価値提供をしたい」との思いから、プラットフォームでのマッチング事業を構想し、16年6月に「PickGo」の前身となる「軽Town」のサービス提供を開始した。松本氏はサービス開発の背景について、「多くの軽貨物ドライバーは自身のネットワークの中でしか仕事を受注できない上、一度依頼を断ると二度と依頼が来なくなるなど個人事業主としての立場も弱い。個人事業主らしく仕事を選べたり、努力した結果が収益に結びつくような環境を作りたかった」と振り返る。
「PickGo」は荷主と個人事業主のドライバーをつなぐ配送マッチングサービスで、登録ドライバー数は1万5000人以上。マッチング率は99・2%に上り、依頼からエントリーまでは56秒といずれも業界屈指の数字を誇る。
運送業界特有の多重下請け構造とならないよう仕事の横流しを防ぎ、質の高いサービスを提供するドライバーが選ばれる仕組みを整備している。また、ガソリン代や駐車費など経費が事前に発生することが多いドライバーのキャッシュフローを改善するため、報酬を即日入金する仕組みを三井住友銀行と開発し、物流業界で初めて採用した。
今年2月からはサービス領域を一般貨物にまで拡大。運送事業者が健全に経営できる価格設定の維持と輸送品質の向上につなげている。
松本氏は配送マッチングについて、「電話での応対に比べ、ドライバーが見つかるスピードが圧倒的に早い。また、急な欠品などで車両の手配が必要となった場合は、ドライバーの位置情報を把握できるほか、届け先への到着時間を表示するため、より安心して利用できる」と説明する。
物流大手との協業で「PickGo」を拡大
CBクラウドは19年8月に佐川急便と資本・業務提携契約を締結し、佐川急便の軽貨物チャーター運送で運用されるサービス「軽マッチング」と「PickGo」を連携させた。佐川急便は即日配送のスキームを入手し、CBクラウドは佐川急便の顧客からの受注が増えることで、ドライバーへの配送案件数を拡大。ドライバーはより多くの仕事を選ぶことができるようになった。
また、日本郵政グループからの出資を受け、日本郵便と次世代宅配システムの共創に向けた取り組みを促進。今年6月に宅配効率化システム「SmaRyu Post(スマリューポスト)」の本稼働を開始し、全国約200ヵ所の郵便局に順次導入していく計画だ。
さらに、CBクラウドでは陸空海の各輸送手段を組み合わせ、荷主と最適な輸送手段をシームレスにつなぐ「モノのMobility as a Service(MaaS)」構想の実現も目指している。19年9月からANA Cargoと連携し、国内主要空港と全国の陸路をつなぐ空陸一貫輸送サービスの提供を開始した。最大の特長は、航空機を利用した遠方地への配送をプラットフォーム上で最速で手配できる点で、沖縄・那覇市から東京23区内までの案件については、早朝8時までに受注すると、最短半日で届けることが可能だという。
このほか、19年10月にはJR東日本の子会社であるJR東日本スタートアップと資本提携契約を締結。手ぶら観光の配送手段として「PickGo」を活用するほか、将来的には鉄道などを利用した「モノのMaaS」の実現を図る。
一般消費者向けのサービス拡充へ
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、CBクラウドは4月から「PickGo」を活用した買物代行サービスを開始した。7月には大手タクシー事業者と連携し、買物代行サービスを充実させた。今後は買物に限らず、ドライバーの価値向上を目的に、一般消費者に向けた配送サービスの展開も視野に入れる。松本氏は「実現すれば『PickGo』では、大型トラックからバイクまでの配送領域とラストワンマイルから幹線までのマッチングを全て網羅できる。今年度中のサービス展開を目指したい」と意欲を示す。
このほか、今年3月からスタートした運送事業者向け業務支援システム「SmaRyu Truck」の導入拡大も進めている。同システムは、運送事業者における配車管理や運行管理請求業務などをデジタル化することで、業務効率化を実現するもの。配送案件の受注から請求書発行までの業務を一気通貫で完結できる。
松本氏は今後の課題について、「物流業界はDX(デジタルトランスフォーメーション)の仕組みを使用するステージにすら立っていないため、中期的にその仕組みを使用して業務を行う領域をどれだけ広げていけるかがチャレンジ」と述べ、「当社は実際に運送事業を経験したベンチャー企業として、ノウハウを保有していることが強み。運送事業者にフィットするシステムを提案し、業界のIT化に寄与していきたい」と抱負を語る。
(2020年7月30日号)