【ズームアップ】タイ事業で専門性を高めた取組=鈴与
鈴与(本社・静岡市清水区、鈴木健一郎社長)はタイにおいて、主力の自動車関連物流のほか、日系企業として最大の保有面積を誇る危険品倉庫事業や、タイ国食品医薬品承認局(FDA)の登録代行など、特定市場を対象としたサービスを展開。こうした専門性のあるマーケットで“NO.1”を目指すとともに、既存荷主企業に対する一貫物流サービスの提案も強化し、同国事業のさらなる拡大を図る。
海外事業で最大規模従業員数は840人
鈴与のタイ事業は2現地法人が担い、1992年に設立したSuzuyo (Thailand)は、海上貨物をはじめとするフォワーディングや国内輸送サービスを提供。2005年に鈴与独資で立ち上げたSuzuyo Distribution Center (Thailand) は、国内のDC・倉庫事業を担当する。両法人を合わせた従業員数は840人。営業倉庫は14ヵ所、特定荷主専用倉庫5ヵ所を稼働し、営業倉庫の総面積は9万6000㎡に上るなど、タイ事業は鈴与の海外事業で最大規模となっている。
売上高の6割が自動車関連物流で、2割を危険品や塗料といった化学品物流が占める。このほかに、アルミ板などの素材メーカーの物流や、日系コンビニ大手の店舗向け納品業務も受託しており、合計230台(協力会社含む)の車両を駆使した国内輸送事業も経営の柱となっている。
食品や化粧品などのタイにおける輸入支援が好調
進出以降、タイ経済の発展に追随する形で事業規模を安定的に拡大してきたが、さらなる成長に向けて、今後、①自動車関連、②食品・日用雑貨・化粧品、③危険品、④医療機器、⑤Free Zone(FZ)――の5事業に注力する。
主力の自動車関連物流事業では、進出企業が一巡していることもあり、既存取引先への複合的な物流提案を進める。例えば、輸入調達業務のみを受託する荷主企業の輸出・国内向け業務や、倉庫業務を請け負う荷主企業の輸送業務など、既存顧客の潜在的なニーズを掘り起こし、鈴与が持つ幅広い物流機能の提供を目指す。
食品・日雑品・化粧品分野では、日系企業によるタイでの輸入を支援。これらの商品のタイにおける輸入にはFDAへの登録が求められるが、手続きが非常に煩雑で、タイ市場への参入障壁となっている。そこで、鈴与がFDAの登録手続きを代行するとともに物流業務も請け負うことで、日系企業の進出を強力にサポート。タイでは富裕層の拡大を背景に日本製の高付加価値商品への需要が増しており、同分野には「最も注力していく」と国際事業室東南アジア総支配人の櫻井隆志取締役は話す。
すでに、化粧品や日本酒、菓子などの輸出支援で実績を持つ。一例として、鈴与が日本で3PLを受託している大手菓子メーカーに対しては、日本国内の倉庫で商品を冷凍のままリーファーコンテナに積み込み、海上輸送を経てタイの委託先冷凍庫に運ばれた後、同所から保冷車で納品先店舗まで配達する一貫物流サービスを提供。こうした日本側で取引を持つ企業に対してタイへの販路拡大をサポートしたい考えだ。
危険品倉庫は日系最大の1万2500㎡を運営
危険品倉庫は3拠点4棟を構え、うち3棟には定温庫も備える。具体的には、バンプリーで4200㎡、レムチャバンで3200㎡。バンナでは昨年1棟を増設し、2棟で計5100㎡を運営しており、ISO4種を取得して安全品質も担保している。
危険品輸送についても法令で求められる第4類免許を持つドライバーが40人超在籍。「法令順守の下で保管から輸配送までカバーできることが強み」と櫻井氏は強調する。安全品質への信頼から、日系のみならず欧米企業からも貨物を預かり、バンナの危険品倉庫2期棟も満床状態にあるという。
医療機器物流でも、稼働倉庫がタイの物流業者で初めてISO13485を取得したことが高く評価され、欧米系の企業などから保管、配送業務を任されている。市場規模はまだ限定的だが、タイでも少子高齢化は進展しており、「中長期的な市場拡大は見込まれる」という。その上で、日本で鈴与が展開する各種医療機器の取り扱いのノウハウも将来的に同国事業で生かしたい方針にある。
FZ倉庫サービスでは、主にFZ工場を持つ日系企業から安定的な需要があり、輸入貨物を保税状態で一時保管、発送できることで荷主企業のコスト削減に貢献する。
一連の営業施策に加え、現地スタッフの育成にも取り組む。タイへの進出企業では人材の現地化が進み、物流担当者をタイ人が務めるケースも増えている。鈴与でも現地採用の営業マンを育てることで、現地化が進む荷主企業とのコミュニケーションを強化する。合わせて、現地法人の人事制度も改善。評価やキャリアパスを明確化したことで従業員間の不公平感が解消され、定着率の向上につながったという。
ビジネスモデル型営業をタイでも展開
タイにおける日系進出企業数は、この10年間で1500社超も増加し、5500社に迫るとされる。日本人商工会議所の登録者数も伸び続けている。一方で、近年タイではは世界的な景気低迷などを背景に、主要産業である自動車の生産台数が停滞傾向。所得水準が上昇しながらもGDPの成長が鈍化する “中進国の罠”にはまっている――との指摘もある。
こうした中、自動車産業に携わってきた物流会社からは、食品や日雑品など安定貨物への関心が高まっている。櫻井氏は「フォワーディングから国内輸送、倉庫保管、そして商社機能に至る一連の物流関連サービスを揃える当社の強みを発揮するとともに、鈴与が日本で拡大する『ビジネスモデル型営業』もタイで展開できるよう、お客様にメリットを提供できる事業モデルの開発を進めていく」と同国事業に意欲を示す。
(2020年3月17日号)