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【物流倉庫】国内危険物倉庫、プレイヤーは増設を加速

2017.05.30

危険物物流事業者による危険物倉庫増設の動きが高まっている。汎用品を中心とした化学品の海外生産シフトが進む中、国内では輸入製品の取り扱いが増加。輸出に関しても堅調さがうかがえる。また、危険物の保管にかかるコンプライアンスの浸透も旺盛な需要の一因となっている。ただ、危険物倉庫は保有空地の確保など土地の利用効率が悪いため、積極的に投資するのは危険物を扱う顧客とのパイプの太いプレイヤーに限られており、今後も需要が供給にまさる状況は続くとみられている。

「中部物流センター」建設、輸出入貨物の取り扱いを拡大=日陸

日陸(本社・東京都千代田区、能登洋一社長)では国内危険物倉庫事業で、輸出入貨物の取り扱いを拡大する。「化学メーカーは海外で生産し、日本に輸入するケースが増えている」と田野泰二常務。従来、同社の危険物物流拠点は“コンビナート型”“内陸型”の比率が高かったが、2011年開設の「横浜物流センター」(横浜市鶴見区)に続き、“輸出入型”の「中部物流センター」(愛知県弥富市)を18年2月に開設する。「横浜物流センター」でも危険物倉庫1棟分の増設余地があり、顧客のニーズを見極めながら各種施設の整備可能性を検討中だ。

●港に近いエリアに拠点拡充が必要

同社の主な拠点のうち「千葉物流センター」(千葉県市原市)および「千葉物流センター袖ヶ浦倉庫」(千葉県袖ケ浦市)、「大阪物流センター」(大阪府高石市)は“コンビナート型”、「群馬物流センター」(群馬県邑楽町)は“内陸型”、「名古屋物流センター」(愛知県東海市)、「九州物流センター」(佐賀県吉野ヶ里町)もやや“内陸型”で、“輸出入型”は「横浜物流センター」が中核拠点となっている。

国内の拠点はいずれもフル稼働しており、引き合いも順調。田野氏によると「ケミカルの上流工程は海外生産が進み、加工品として輸入されるケースがますます増えてくると予想される。当社としても港に近いエリアに拠点を拡充していく必要がある」。輸出入貨物の取り扱いに注力するため、中部地区における“輸出入型”の拠点として「中部物流センター」の建設に着手した。

名古屋港から10km圏内で、1万6200平方mの敷地に危険物自動立体倉庫1棟、危険物平屋倉庫1棟(計2000平方m)、一般品倉庫(7100平方m)を建設。危険物倉庫は消防法第4類を扱い、1棟を自動立体化することで収容能力アップと省人化を図る。一般品倉庫については2300平方mの定温(5~25℃)スペースを設置。津波や停電に備えたBCP(事業継続計画)対策も実施する。

「中部物流センター」は輸出入貨物がターゲットで全体を保税蔵置場とする計画。第2期工事も予定しており、倉庫を順次拡張していく。なお、既存の「名古屋物流センター」は、危険物自動立体倉庫(常温およびマイナス15℃~10℃)、危険物冷凍倉庫(マイナス15℃~5℃)を配備している特長をいかし、温度管理を要する危険物を積極的に取り込むことで機能分担していく。

●定温保管も強化、埼玉では協業スキームも

危険物の定温保管も強化しており、「千葉物流センター袖ヶ浦倉庫」で危険物定温倉庫1棟を増設し、2月から稼働。倉庫面積は800平方mで5℃~25℃の温度管理が可能。既存の1号棟は、20℃(2室)、5℃、10℃、15℃の4温度帯5室に分かれていたのを、10℃の温度帯を減らし、マイナス20℃の温度帯(計3室)に変更する工事を実施。事務所内に設置した集中管理システムで常時、定温倉庫内の温度を厳密に管理できる。

3月末には埼玉物流センター(さいたま市岩槻区)を閉鎖。茨城県古河市に自社施設の危険物倉庫を建設した日立物流ファインネクストと協業スキームを構築する。旧埼玉物流センターの取り扱い貨物の大半が日立物流ファインネクスト関連で、これらの貨物は同社が内製化することとなるが、それ以外の貨物の一部も今後は日陸から同社に寄託する。

なお、化学品は多品種小ロット化によりドラムや缶からさらに細かい荷姿が増え、箱詰めやラベル貼付等の作業も求められる。こうした要求に応えていくために、古い倉庫のスクラップ&ビルドを進め、自動立体化やラックの導入など省力化に取り組む。また、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールを活用し、物流会社側から長期在庫品等の情報を荷主に提供し、効率化を提案するなどサービスの付加価値も高めていく。

旺盛な需要に対応しキャパシティを増強、同業他社との協業も=築港

「全国的に危険物倉庫はフル稼働している」と話すのは、築港(本社・神戸市中央区)の瀬戸口仁三郎社長。近年、危険物物流事業の拡大において同業他社との協業を推進。旺盛な需要に応えるため、主要エリアで提携先企業の施設を活用し、危険物倉庫のキャパシティを増強している。昨今、危険物倉庫への参入に関心を示す企業が増えており、こうした企業を“競合相手”でなく“協業相手”と位置付け、築港の営業力とブランド力をいかし、双方にメリットのある事業展開を目指す。

●名古屋、大阪地区で協業による事業拡大

「当社が運営する危険物倉庫は全国的にほぼ満庫状態。為替の影響とは関係なく、輸出が増えており、とくに東南アジア向けが目立つ。輸入も一時よりやや減少したが、大きく落ち込むほどではない。定温管理が必要な危険物も増えてはいるが、それ以上に常温の危険物の伸びが大きい」と瀬戸口氏は話す。

6大港を網羅したライセンスに加え、長年の危険物物流の実績により、築港の「営業力の強さ」は群を抜いている。この10年間、自社拠点で危険物倉庫の新増設を進めてきたが、自社の施設だけでは対応できなくなってきた。そこで近年は、多様化する顧客ニーズへの対応と投資効率の観点から同業他社との提携による事業拡大を図っている。

名古屋地区では、12年に開設し、15年に増築した名古屋化学品センター(愛知県弥富市)がフル稼働していることから、昨年秋に同市内で名港海運の危険物倉庫(1000平方m)を賃借。現在、同社では危険物倉庫の2棟目も建設中だ。

今年1月からは、櫻島埠頭(大阪市此花区)の敷地内の危険物倉庫等の施設を築港が利用し、作業を委託する協業スキームをスタート。大阪港では従来から通関業務を行っていたが、従来の大阪営業所の通関部門と業務部門を櫻島埠頭の施設に移転し、「桜島営業所」として開設、同10日から営業を開始した。

協業スキームは櫻島埠頭内の危険物倉庫2棟(1600平方m)および化学品倉庫、危険物一般取扱所が対象。危険物倉庫には移動ラックを導入し、神戸・尼崎地区の輸出入貨物の一部を移管。大阪地区では需要に対し危険物倉庫の供給が少なかったため、既にフル稼働している。

●神戸では2期工事、横浜でも増設を検討

神戸地区では自社拠点を充実。昨年11月、ポートアイランド化学品センター(神戸市中央区)で経年化した小型の危険物倉庫3棟を1000平方mの危険物倉庫1棟に建て替え、庫内の3分の1を定温化した。第2期では、定温危険物倉庫1棟(1000平方m)、ISOタンクコンテナ取扱施設、マルチワークステーションの充実などを検討する。

横浜地区では、横浜化学品センター、横浜化学品センター第2倉庫(横浜市鶴見区)が立地する大黒町の危険物倉庫事業者との協業体制を強化し、エリア集荷の拡大を図る。第2倉庫敷地内での将来的な危険物倉庫の増設を検討するほか、大黒町以外の同業他社との提携も視野に入れている。

内陸で危険物倉庫増設、一般雑貨系の危険物該当品も取り込む=丸善

丸善(本社・東京都江東区、藤井宏幸社長)では、内陸型危険物物流拠点の充実を図っていく。従来、同社の危険物物流拠点は東京湾に面した京葉油槽所(千葉県市川市)内の市川事業所1ヵ所だったが、同社初めての油槽所外の拠点として昨年1月、危険物倉庫、普通品倉庫を併設した内陸型の「柏事業所」(千葉県白井市)を開設。同事業所が現在8割稼働していることから、隣接地を取得し、来年夏頃をメドに、危険物倉庫、普通品倉庫をそれぞれ1棟ずつ着工する。タンクターミナル事業者で油槽所構外に拠点を拡充するケースは珍しい。

●荷主は「ひとつの拠点」として活用

丸善のタンクターミナル事業拠点である京葉油槽所は“オールステンレスタンク”、“ワンタンクワンライン”を強みに、ファインケミカル分野の保管に注力している。ただ、スペースに限りがあり、構内でのケミカルタンク増設による事業拡大が難しいことから、“構外”の拠点を検討してきた。

白井工業団地内に6600平方mの敷地を確保し、柏事業所を昨年1月に開設。京葉道路原木ICから17km、常磐自動車道柏ICから18km、東京港からは60kmに位置し、平屋の危険物倉庫2棟(1棟990平方m)、普通品倉庫1棟(1200平方m)で構成され、3棟合計1万8000ドラムの収容能力を持つ。

危険物倉庫は消防法危険物第4類(第3・第4石油類)に対応し、普通品倉庫は天井高が6・5mで、指定可燃物も保管可能となっている。荷主は危険物と普通品および毒劇物を1ヵ所で管理できるメリットがある。内陸の拠点ではあるが、保税蔵置場も設置し、移動式スロープを利用し、輸出入貨物のバンニング、デバンニングにも対応できる。

同社では同じ千葉県内の柏事業所と市川事業所との“一体運用”をコンセプトとして掲げており、荷主はあたかも「ひとつの拠点」として活用できる。エンドユーザーとの距離などを考慮し、内陸、湾岸の出荷拠点を柔軟に選べることもメリットで、荷主の輸配送コスト削減にも貢献できる。

●3300平方mの隣接地を取得

危険物立体自動倉庫を有する市川事業所では主に多品種小ロットの貨物を扱い、サンプリングや抜缶、詰め替え、ドラム充てん等の作業にも対応。一方、柏事業所はロットの大きい貨物に適している。2拠点間の貨物の移動を行う専用の大型トラック(自家用)も導入している。ドライバー兼フォークマンは繁忙に合わせて事業所の応援も行う。

柏事業所の増築をめざし、3300平方mの隣接地を取得。危険物倉庫(990平方m)、普通品倉庫(660平方m)、屋根付きの荷さばき施設を計画している。危険物倉庫については危険物第4類以外の類への対応や定温化も検討。同業他社が敬遠しがちな、化粧品やインクなど一般雑貨系の危険物該当品の保管・流通加工についても、積極的に取り込む考え。

(2017年5月30日号)


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