【物流効率化】「ロジスティクスエンジニアリング戦略室」新設=日本通運
ニーズを超えた“一歩先”へ
日本通運(本社・東京都港区、齋藤充社長)では今年5月1日付の本社組織改編で、管理本部内に「ロジスティクスエンジニアリング戦略室」を新設した。AI、IoT、ロボット、自動運転などの新技術の出現・進化により、物流業界も新たな価値創造型産業への転換が求められている。その中で、今回の新組織は物流業界のリーディングカンパニーとして、業界における競争優位の確立に加え、生産性の向上や物流効率化を通じ、社会全体への貢献を果たしていくことを目的としている。
社内で分散していた知見を一本化し全社で共有
「技術に関するノウハウや知見が各現場やグループ会社に分散し、そこで完結してしまっていた」――戦略室の初代室長に就任した宮川治樹氏は、日通が抱えていた“課題”をこう表現する。これまでも、支店や倉庫で個々の顧客の具体的なニーズに対応するためにマテハンなどの新技術を導入することは多かったが、ノウハウや運用した上での評価が社内全体で共有されず、現地で終わってしまっていた。こうした情報や知見を一本化して、最先端のソリューションを提供できる体制を実現していくことも戦略室の大きな役割だ。
また、「従来はお客様のニーズありきの対応にとどまっており、ニーズを超えた一歩先を行く領域までは踏み込めていなかった。組織には実際のビジネスを走らせる“Run the Business”機能と、革新していく“Change the Business”機能が必要だが、当戦略室は明らかに後者。営業組織ではなく、管理本部内に置かれたのも、そのためだと考えている」。
戦略室の具体的な活動領域及び計画は〈前頁・表〉の通り。情報収集・発信に加え、物流センターの高度化(自動化・無人化)や、政府が成長戦略のひとつに据える隊列走行など「移動革命」実現への協力、ビッグデータ活用など多岐に及ぶ。「大きく言えば“進化する物流”に資するものすべてがカバー領域。効率化についても、事業や商売につながるもの、内部の改善に寄与するものなどを幅広く扱っていきたい」と語る。
“物流のプロ”ならではの自動化・省力化を実現
このうち物流センター内での自動化・省力化は大きなテーマ。日通には全国に多くの物流センターがあり、一部分はマテハン機器を導入しながらも、大部分はヒトがやることを前提としたオペレーションを展開している。そのため、「グループ全体での省人化余地はとてつもなく大きい」と分析する。
まずは顧客の業種・分野に応じた自動化・省人化のモデル事例を立ち上げ、水平展開していくことに取り組むが、そのためにもマテハンメーカーとの連携を強化することが求められる。「出来合いの機器を買って導入するのではなく、一歩先のビジョンを共有できる協業先を増やしていきたい。ベンチャーを含め新技術は各所に散らばっており、様々な技術を組み合わせることによる“化学変化”にも期待している」。また、新技術の“見える化”も図る。「新技術を実際に眼で見て、実験する機能は、導入する際のリスク軽減のためにも必要」と語る。
ただ、現状の作業スキームをそのままに自動化・省力化するだけでは、「プロを必要としない物流」になってしまうことにもなりかねない。「プロの物流事業者として経験を積み重ねてきた“一日の長”を活かし、日通ならでは自動化・省力化を実現しなければならない。機械化できるところは機械に任せるのは自然な流れだが、その中で逆にヒトが関与する価値も明らかになってくる。その意味ではヒトとロボットが協働する“Human-Robot Logistics”に向かっていくのではないか」との見通しを述べる。
また、多くのモデル事例を重ねた近い将来、ビッグデータを使って収集・分析し顧客に提供することで付加価値を生み出すことにも取り組んでいく。「多くの事例から集めたノウハウを集積することで、改善効果や進化のスピードはより深まる。そうした付加価値を提供することが、“物流のプロ”としての存在意義にもつながる」という。
「移動革命」にも物流事業者として積極的に意見を
一方、政府が意欲的に進めている自動運転、隊列走行など「移動革命」も、運送事業者としての顔を持つ日通にとって避けられないテーマ。例えば、隊列走行に関しては技術開発が進む一方で、実際の運用ベースでの諸条件などはまだ見えていない。しかし、「実現すれば、生身の人間が従事していく中で、働き方を含め検討課題は多い。受け身ではなく、事業者サイドからの意見や要望を積極的に出していく必要がある」と指摘する。
そのためにも、物流事業者による連携やプラットフォーム構築は不可欠だという。「事業者によってサービス形態などは違うものの、A地点からB地点へモノを運ぶ領域で革新が起きることだけは間違いない。事業者が協調できるところは協調して、お客様のメリットにもつながる条件など明確していく必要がある」と述べる。
「あるマテハンメーカーの担当者と話した時、『これからマテハン機器でどんなことができそうですか』と尋ねたら、『それを決めるのはあなた(=物流事業者)です』という答えが返ってきた」と宮川室長は語る。「確かに、これまでは顕在化しているニーズだけに捕われ過ぎて、いわばお客様の口を借りて語っていた。これからはもっと我々自身の言葉で伝え、一歩も二歩も先に進んだ技術革新に取り組んでいきたい」――。
(2017年6月29日号)