物流現場にロボット、AIで可能に=MUJIN
ロボットを動かすには、一つひとつの動作をプログラムする「ティーチング」が必要となる。そのため、取り扱う商材が多岐に渡り、作業が流動的な物流現場において、産業用ロボットの導入はこれまで困難とされてきた。そうした中、MUJIN(本社・東京都墨田区、滝野一征CEO)が開発した「MUJINコントローラ」は、AI(人工知能)を搭載することで産業用ロボットによる複雑な作業への対応を可能とし、省人化・省力化が喫緊の課題として迫る物流業界から関心を集めている。
アスクル、PALTACなど導入が進む
MUJINは、産業用ロボットを動かすコントローラに内蔵されるソフトウェアを開発するベンチャー企業。産業用ロボットは従来、コントローラの操作方法がロボットメーカーごとに異なる上、ティーチングの難易度が高く、ロボットもプログラミングされた動作を繰り返すことしかできないなど、制約が大きかった。そこで、同社では「MUJINコントローラ」を開発し、国内ほぼ全メーカーの産業用ロボットに対応するとともに、高精度3Dビジョンとモーションプランニング(動作計画)AIよる認識技術を用いて多様な形態の商品でも“ロボットが自分で見て、動ける”ようにした。
当初はファクトリーオートメーション向けに展開してきたが、2016年のアスクルとの業務提携締結を契機に物流市場へ本格参入し、同社の倉庫にもロボットを導入。18年には、中国の大手ECモール「京東商城」の完全自動化倉庫にロボット20台を納品したことが国内外で注目された。
最近では、日用品卸大手PALTACの「RDC新潟」でパレット自動倉庫と連携した4台のデパレタイズロボット(写真)を導入してケースピッキングの完全自動化に成功し、生産性も2倍に向上。同社では今年11月に埼玉県杉戸町で開設予定の新拠点にもMUJINコントローラと荷捌きロボットを導入する予定にある。
デバンニング作業も自動化へ
同社の知名度を上げたのが、昨年9月の国際物流総合展への出展だ。その後、旺盛な引き合いがあり「来期にかけて稼働が続く」と営業本部物流営業部の藤巻陽二朗担当課長は話す。とくに小売・卸の物流センターや、その庫内業務を受託する3PL会社からの問い合わせが多く、飲料など重量物を動かす作業でロボット化へのニーズが強いという。さらに、最近ではコンテナデバンニング作業の自動化への相談も多く、現在、対応ソフトを開発中にある。
一方で、自動化ロボットを既存倉庫に取り入れるには障壁も多い。作業員を前提に組まれたロケーションやオペレーションをロボット向けに組み直す必要があるためだ。さらに3PL会社においては受託業務の不確定さからマテハンへの大型投資が難しい事情もある。
そこで、MUJINでは新たに、自動搬送機(AGV)と産業用ロボットを組み合せたソリューションを提供。月額・年額での利用を可能とし、初期投資を抑えるとともに業務変更のリスクも回避する。立上げも容易で、AGVの台数を調整すれば繁閑差にも対応できるという。
ただ、ロボットの導入に当たっては「多少の制約を受け入れる必要もある」と藤巻氏。作業自体は自動化できるが、ロボットの生産性を高めるには事前に出荷データの整理が必要になるなど、新たな業務が発生することもある。加えて、「長時間稼働できる」というロボットの長所を活かすには物量の平準化が肝。「サプライチェーンそのものを見直して業務を平準化することは、ロボットの生産性向上にも寄与する」と同氏は指摘する。
最新の物流技術に注目が集まる反面、実際には「導入事例が増えて性能が向上した上で導入したい」と考える企業も少なくない。その点について藤巻氏は「ロボットも、レイアウトやオペレーションの最適化にはどうしても時間が掛かる。そのノウハウを先行して蓄積できることは、5年後、10年後に大きなメリットとなる」と説明する。同社としても、「ロボットの生産性をより高めることが導入障壁を下げることにつながる」として開発のスピードを上げる考えだ。
(2019年6月27日号)