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ズームアップ トラック働き方改革で「飴とムチ」

2018.07.05

6月29日に参議院で働き方改革関連法案が成立し、時間外労働時間の罰則付き上限規制が課せられることが決まった。トラック運送業の規制導入は法施行後5年間の猶予が与えられているとはいえ、長時間労働削減の取り組みが喫緊の課題であることは間違いない。

そうした中、国土交通省は1日から、トラック運送事業者などの過労運転防止や長時間労働是正を図るため、過労防止関連違反などに対する行政処分の基準を引き上げた。とくにドライバーの拘束時間や休日労働については、1件でも違反が確認された場合は即時に車両停止処分となるなどトラック運送事業へのインパクトも大きい。一方で、国交省では労働時間の厳守に取り組む運送会社を“優良事業者”として評価する「ホワイト経営認証」の創設を進めており、トラックドライバーの「働き方改革」の実現に向けた飴とムチの施策が展開されようとしている。

拘束時間や休日労働に限定して処分量定を引き上げ

貨物自動車運送事業者に対する行政処分等の基準が3月30日に改正され、今月から施行された。トラック運送事業などの長時間労働是正に向けて関係省庁連絡会議が取りまとめた「直ちに取り組む施策」を踏まえて実施したもの。国交省の担当者によると「過労運転による事故を防止すると同時に、ドライバーの職場環境を改善することで人手不足の解消につなげる狙いもある」。ただ、「荷主の都合により長時間労働が発生している実態があることを考慮し、事業者だけの努力で改善できる範囲内として、拘束時間や休日労働に限定して処分量定を引き上げている」と説明する。

具体的には、ドライバーの「乗務時間等告示(厚労省の改善基準告示)」のうち、拘束時間や休日労働の限度に関する違反に対して処分を厳しくした。乗務時間等告示の遵守違反は現行の処分基準に加え、未遵守が1件あれば初違反で10日車、2件以上は20日車の車両停止処分とする。また、健診見受診や社保未加入の従業員が1人の場合でも警告処分とする。初違反で健診見受診者または社保未加入社が1人の場合は警告処分とし、2人の場合は20日車、3人以上は40日車の車両停止処分とするなど従来の基準よりも厳格化。トラックの処分量定についても、行政処分の実効性を強化するため、使用停止車両の割合を最大で全車両の5割まで引き上げた。

こうした改正を踏まえ、全日本トラック協会(坂本克己会長)では、協会HP内に行政処分等の基準改正についてのページを掲載し、周知活動を行っている。地方トラック協会も運輸局と連携しながら、HPや広報誌を活用し、会員に向けて改正内容の浸透を図っている。事業者からは「改正に対応し、労務管理を着実に行うことで、社内の働き方改革を進める」「健康診断の未受診者や社保の未加入者がいないかなど、これまで以上しっかりとチェックしていく」という声が挙がっている。一部の事業者からは、処分の厳格化への不安も聞かれるが、「過労運転させないのは当然のこと。これを厳しすぎると言っているようでは、魅力的な業界と言えない」という意見もある。

行政処分の厳格化と同時に、長時間労働の是正に積極的に取り組む事業者を評価する「ホワイト経営認証」の創設も打ち出された。ドライバーが働きやすい職場環境づくりに努力しているトラック事業者を評価することで「可視化」し、荷主や元請けに起用を推奨したり、優良事業者のドライバー確保支援につながることを目指すもの。9月頃に制度を立ち上げ、来年度から運用を開始するとしている。トラックドライバーの働き方改革に関する“抑止力”と“インセンティブ”がどう働くか注目される。

厚生労働省が2016年に初めて公表した「過労死等防止対策白書」によると、脳・心臓疾患の業種別請求、および支給決定件数は「運輸業・郵便業」が第1位。中小企業庁の「取引条件改善状況調査」でも、従業員1人当たりの残業時間のうち最も長い1ヵ月の残業時間数が「45時間超」だと回答した割合も「運送・倉庫」がトップだった。また、労働基準監督署の16年度監督指導結果では、「運輸交通業」の7割で労働基準法違反が認められており、過労運転の防止と長時間労働の改善は喫緊の課題となっている。
(2018年7月5日号)


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