軽貨物の「安全管理者」選任を義務化=国交省
国土交通省は12月26日、貨物軽自動車運送事業(軽貨物)の安全対策を強化するため、軽貨物事業者への規制を強化する方針を打ち出した。現行の安全制度を改め、一般トラック運送業並みに安全規制を引き上げる。また、安全対策を担当する「貨物軽自動車安全管理者(仮称)」を創設する。できるだけ早期に新制度を施行するため、今期通常国会への法案提出を検討している。安全規制の強化により、増加傾向にある交通事故件数の削減を図っていく。
軽貨物の「コンプライアンス意識は低い」
国交省は同日開催した「貨物軽自動車運送事業適正化協議会」第3回会合で軽貨物の新たな安全対策を定めた。会合の冒頭、挨拶に立った鶴田浩久物流・自動車局長(写真)は「事業用トラックのうち、軽貨物の死亡・重傷事故件数は2016年以降増加傾向にあり、16年の199件から22年は403件と6年間で倍増した」と指摘。事故の増加傾向が危機的状況にあると訴えた。加えて、今年3月に国交省が実施した軽貨物運送業の実態調査結果をみると「安全確保のための義務を認識していない事業者や、認識していても実施していない例があった。また、実態調査によれば、事業用トラックのうち軽貨物車保有台数1万台当たりの法令別違反件数では安全不確認が最も多く、軽貨物を除いた一般トラックの約2・2倍となっていた」と報告。そのほかにも優先通行妨害をはじめ、歩行者妨害や一時不停止など法令違反も多いことから「軽貨物事業者のコンプライアンスが高いとは言えない状況だ」と述べ、「できるだけ早期に対策を実施し、事故発生を抑止しなくてはならない」と強調した。
事故報告や適性診断受診も義務付け
軽貨物の新たな安全対策は、関係法令を改正することで規制措置を実施することとした。概ね一般トラックと同じ水準まで引き上げる方向だが、新規措置では「貨物軽自動車安全管理者(仮称)」を新設することを決めた。軽貨物事業者は営業所ごとに「安全管理者」を選任し、選任の際には管理者講習の受講を義務付け、管理者には2年ごとの定期講習を義務化する。個人事業主の場合、事業主本人が「安全管理者」を兼ねる。
一般トラック並みに引き上げる規制措置は4項目。国に対する事故報告の義務付けでは、死傷者を生じた事故など一定規模以上の事故について国への報告を義務付けた。事業者は運輸支局や運輸局に事故報告を届け出る。報告が必要な事故の詳細は今後検討する。
国土交通大臣による輸送の安全情報の公表では、事業者に発出した輸送の安全確保命令や、実施した行政処分などの情報を国交省のHP上で公表する。一般トラックと同様、事業者名の公表を通じて事故発生の抑止を図る。
適性診断の受診義務付けでは、一般トラックなどのドライバーに義務付けている適性診断と同等の受診を軽貨物にも課す。業務開始の際の初任診断をはじめ、65歳以上の運転者が3年ごとに受診する適齢診断や事故を起こした場合に受診する特定診断を義務化する。
業務記録および事故記録の保存義務付けでは、業務記録を作成し、1年間の保存を義務化する。事故が発生した場合はその概要・原因や再発防止対策を記録し、3年間の保存を義務付ける。
そのほかの安全対策では、運送事業者を対象とした「自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う一般的な指導及び監督の実施マニュアル」(指導・監督マニュアル)を3月末までに改正し、軽貨物事業者も対象に含める。加えて、4月以降はコンプライアンス意識の向上を図るため法令セミナーの開催や、eラーニングシステムの導入促進を図る。
(2024年1月11日号)