自家倉庫シェアリングスキームに「待った」=日倉協が国交省に要望書
倉庫シェアリングサービスを展開する企業が提供する「自家倉庫シェアリングスキーム」に、営業倉庫業界から「待った」がかかった。自家倉庫のスペースを賃貸借し、入出庫などの庫内作業についても業務委託契約を結んで自家倉庫が請け負う――という「不動産賃貸」と「業務委託」を組み合わせた新たなサービススキームについて、日本倉庫協会(久保高伸会長)は、外形上、営業倉庫が行う貨物の「保管」と取られかねないとの意見を表明。国土交通省に対し、必要な場合には適切な対処を求める要望書を提出した。
自家倉庫の遊休スペースを有効活用
波紋を広げているのが、大手商社系の倉庫シェアリングサービス会社が発表した、新たなサービススキーム。従来は、営業倉庫のみをシェアリングの登録対象としてきたが、その対象を自家倉庫に拡大するというものだ。同サービス会社は、国交省に確認を行ったうえで、「倉庫業法による規制を受けない」自家倉庫シェアリングスキームを構築したとし、7月からのサービス開始を目標に、4月から利用者の募集を開始した。
同サービス会社が注目したのが、自家倉庫が抱える大量の遊休スペースだ。自家倉庫は第三者貨物を保管できないという制約から閑散期にはスペースが遊休化しやすい。同サービス会社によると、倉庫スペース全体に対する遊休スペースの割合は、倉庫業法に基づく登録がなされた営業倉庫が27%の1730万㎡であるのに対し、自家倉庫は40%の4880万㎡に達し、約3倍の遊休スペースが発生しているという。
今回構築した自家倉庫シェアリングスキームでは、倉庫利用者が自ら貨物の保管責任を負うこととし、倉庫利用者・提供者はサービス会社が考案した独自の利用規約に則して倉庫を運営する。また、倉庫利用者が営業倉庫と自家倉庫を誤認しないように、検索一覧に「自家倉庫であること」を明記し、倉庫利用者がいずれの倉庫を選択しているか容易に認識できるよう表示を整備するという。
外形上、荷物の保管と取られかねない
これに懸念を示したのが営業倉庫の業界だ。日倉協の米田浩理事長は6月の総会で、自家倉庫シェアリングスキームに言及。「国交省に確認したところ、このスキームは不動産賃貸で、スペースを借りた人が自分の荷物を扱い、寄託契約は結んでいないため、倉庫業ではないという見解だった」と会員に報告したうえで、「営業倉庫ではない事業者が、実態として営業倉庫的なことを行っていくのではないか」との懸念を述べた。
さらに、6月23日付で米田理事長名により「自家倉庫シェアリングスキームについて」と題し、国交省大臣官房参事官(物流産業)宛に要望書を提出。同スキームの説明に「倉庫利用者が安全かつ安心して荷物を保管することができる国内初のシェアリングスキームを構築した」とあることから、「外形上は、自家倉庫保有者が他の倉庫利用者の貨物を保管しているように取られかねない」と指摘した。
要望書では、「現時点では、同サービスがどのように展開されていくのかは不明であり、また、現存の営業倉庫の事業にどのような影響を与えるのかは見通すことは困難な状況」としながらも、「倉庫業法をもって倉庫業を所管する国交省においても、営業倉庫事業者の懸念を理解していただき、同サービスの動向を注視するとともに、必要な場合には適切に対処いただくようお願いしたい」と求めた。
営業倉庫の“当たり前”が行き届くか
2021年6月に閣議決定された「総合物流施策大綱」では、「倉庫内の遊休スペースの有効活用を図ることにより、多様化する保管需要に対応する倉庫シェアリングの取組を推進する」ことが明記された。ただ、営業倉庫は貨物の再保管にあたって「顔が見える、信頼できる倉庫会社にお願いしたい」というスタンスが根強く、インターネットを介した倉庫のマッチングやシェアリングサービスの利用にそれほど積極的ではない。
営業倉庫には荷物を安全に保管し、管理する「善管注意義務」があり、その自負もある。営業倉庫の経営者からは、「自家倉庫シェアリングスキームでは、荷役の責任が荷主にシフトする。食品の保管の防虫・防鼠、重量物保管の床荷重対応など、営業倉庫であれば“当たり前”にしている配慮が自家倉庫でどこまで行き届くか――。悪貨が良貨を駆逐する状態にならないことを願いたい」との声も聞こえてくる。
(2023年7月20日号)