浜理薬品工業、原薬の輸入でSEA&RAIL方式活用へ
浜理薬品工業(本社・大阪市住之江区、髙美慶大社長)は、SDGsの取り組み強化の一環として、日本の港までの海上輸送と国内の鉄道輸送を組み合わせた、環境配慮型の国際物流スキームに挑戦する。山形県にあるグループ生産工場への輸入原薬の納入で、JRコンテナ(12ft)による国際一貫輸送システム「SEA&RAILサービス」を活用。中国蘇州・太倉地区から高速フェリーで下関港まで運び、JR貨物下関駅で鉄道輸送に接続する。横浜港から陸送する現行の輸送と比べ、CO2を約8割削減できる見込みで、ドライバーの労働時間短縮にも寄与する。
要温度管理や海上危険物、毒劇物該当も
同社は有機合成化学を中核とした新規技術創出に注力し、医薬品原薬・中間体、健康食品や化粧品の有効成分を製造・販売。2020年に本社・研究所を大阪南港の咲洲地区に移転し、生産は浜理PFST米沢工場(山形県米沢市)、浜理PFST千歳工場(北海道千歳市)の2拠点体制となっている。
販売品目の内訳は原薬が66%を占め、販売先の地域別では国内向けが83%。特殊な原料物質は大部分を中国から輸入している。おもな納入先となる浜理PFST米沢工場では、物流の安定性を重視し、東北および日本海側の最寄港ではなく、航路が充実している横浜港を第一港として利用していた。
原薬、医薬品原料、中間体といった貨物は少量ではあるが、温度管理の必要があったり、海上輸送上の危険物あるいは毒劇物に該当するケースもある。20ftのドライコンテナやリーファーコンテナで「1パレット・数ドラム」という輸入形態もあり、物流の効率化に課題を抱えていた。
太倉~下関を結ぶ蘇州下関フェリーを活用
深刻なのがドレージだ。横浜港から浜理PFST米沢工場までは往復約800㎞で、リーファーコンテナ輸送用のMG(発電機)付きシャーシを保有している運送会社は限られるうえ、24年4月からドライバーに罰則付きの時間外労働上限規制が適用される「2024年問題」を前に、長距離輸送を敬遠する動きも出始めている。
中国船社による日本向けのフリータイム(コンテナヤードからの引き取り猶予期間)を変更したことも、新たな輸送方式の検討を後押しした。世界的なコンテナ不足の中、回転率を上げるため、リーファーコンテナについてフリータイムを廃止したことから、デマレージ(保管超過料金)の発生頻度が増すことが懸念されていた。
こうした中、浜理薬品工業の物流パートナー企業であるトレーディア(本社・神戸市中央区、古郡勝英社長)の提案により、JR貨物の「SEA&RAILサービス」に着目。上海港積みが大半であったため、同港に近い太倉港と下関港を結ぶ蘇州下関フェリーを活用し、国内の鉄道輸送と接続する新しい国際物流スキームの検討に入った。
荷役効率よい「両側開き」コンテナを活用
トレーディアでは近年、輸出入貨物の鉄道モーダルシフトに注力しており、貨物利用運送事業の第二種(鉄道)の認可に加え、下関駅を含む関門地域、九州北部の貨物ターミナル駅を拠点駅とする認可を取得している。今回、下関駅から東福島ORS(オフレールステーション)を経由した浜理PFST米沢工場までの輸送を提案した。
「下関港利用トライアル補助金(新規輸送ルート構築事業)」を活用し、まずは常温輸送が可能な輸入原薬を対象に選び、12ftコンテナ3基を9月、11月、2月の計3回輸送する。SEA&RAILとしては極めて多い物量となるため、工場での荷役作業効率のよい「両側開き」の12ftコンテナを使用。第1便は9月下旬に完了した。
納入までのリードタイムは約6日間で、従来、横浜港から輸入していた場合と比べてほとんど変わらない。昨今はコンテナ船のスケジュールが乱れがちな中で、高速フェリーの方が定時安定性を維持できるメリットもある。輸送コストについてもSEA&RAILを使うことで、15%程度削減できるという。
幹線輸送の鉄道シフトで陸送距離を大幅削減
従来は20ft・40ftコンテナを横浜港から陸送するか、LCL(小口混載)で輸入する場合は横浜港のCFS(コンテナフレートステーション)でトラックに積み替え、チャーター便で納入していた。国内での幹線輸送を鉄道に切り替えることで、トレーラ、トラックによる陸送距離が大幅に短くなり、CO2を約80%削減できる見込みだ。
輸出入貨物の国内輸送でトレーラ、トラックへの依存度を下げるため、今後は温度管理が必要な貨物について20ftリーファーコンテナで下関港まで運び、12ft保冷コンテナに積み替えて運ぶことも視野に入れる。危険物、毒劇物該当品についても、下関港を経由したSEA&RAILへの適用可能性を探る。
2018年に日本でもGDP(医薬品の適正流通基準)のガイドラインが制定され、浜理薬品工業生産統括本部購買部購買課の濱松克仁課長は「原薬の輸送に対しても要求が厳しくなりつつある」と話す。人の健康にかかわる企業として、これまで以上に品質にこだわり、地球環境負荷の軽減、持続可能性を追求した物流のあり方を目指す。
(2022年9月27日号)