貨物鉄道の自然災害時の対応力を強化へ=国交省
国土交通省は、貨物鉄道の輸送障害発生時における対応力を強化するための取り組みを進める。自然災害などによって長期不通が発生した場合でも、安定的なトラック代行輸送が行えるよう、来年度予算で貨物駅の機能強化などを支援する。今後、財務当局やJR貨物などと具体的な貨物駅の選定を進めるが、ここ数年で2度にわたって大雨などによる長期不通が起きている山陽線の貨物駅が候補として浮上しそうだ。
輸送障害多い山陽線が整備候補か?
国交省鉄道局は、2023年度予算の概算要求の中で「自然災害の発生時等に代行輸送の拠点となる駅機能強化への支援」を新規項目として盛り込んだ。「幹線鉄道等活性化事業費補助」として事業費13億3600万円(うち国費4億4400万円)の一部を充てる。
具体的な事業内容は、自然災害などによる鉄道貨物輸送の長期不通が発生した場合、スムーズな代行輸送体制を確立するため、トラックが滞留しないよう貨物駅の拡幅やトラック待機・駐車スペースなどの施設を整備する。
整備対象となる貨物駅の選定は「これから議論していく」(貨物鉄道政策室)が、候補として挙がってきそうなのが山陽線の貨物駅だ。山陽線は18年7月に発生した豪雨で100日間、昨年8月の大雨でも3週間強にわたって長期不通に見舞われるなど、貨物鉄道ネットワークにおけるボトルネックとなっている。また、鉄道による迂回ルートが乏しい上に、狭あい化した貨物駅が多いために駐車スペースなどが限られ、低い代行輸送率にとどまるなどの課題を抱える。鉄道局では「山陽線は当然しっかり見ていくことになる。また、どのような機能を強化すれば、トラックへの積み替えをスピーディかつ大量に行うことができるか、候補となる貨物駅の絞り込みも含めてしっかり検討していく」(同)としている。
検討会で提示された課題を踏まえ予算要求
今回、鉄道局が打ち出した支援策は、7月に公表された「今後の鉄道物流のあり方に関する検討会」の中間とりまとめを踏まえている。中間とりまとめでは、貨物鉄道(JR貨物)がその役割を十分に発揮するために必要となる14項目にわたる課題を提示したが、なかでも重要となるのが災害時における対応力。「検討会の議論の中でも、荷主から厳しい意見や要望が多く寄せられた。今後、貨物鉄道の輸送量を拡大していくためには、災害への対応が不可欠になる」(同)との考えを示す。
近年、自然災害の激甚化・頻発化により、大規模な輸送障害が増加。06~10年の5年間で7914本だった運休本数が、16~20年の5年間で63%増の1万2901本まで増えており、〝災害に強い貨物鉄道〟に向けた取り組みが喫緊の課題となっている。
CO2算定の精緻化、新幹線貨物輸送で調査実施へ
鉄道局ではこれ以外にも、来年度の予算要求として「国際海上コンテナの鉄道輸送拡大に関する調査」「貨物鉄道におけるCO2排出量算定の精度向上に関する調査」「新幹線による貨物輸送拡大の可能性に関する調査」の3項目を盛り込んだ(国費3億9200万円の内数)。いずれも、14項目の課題に対応しており、「その中で国として予算などを通じてお手伝いできる項目を選んだ」(同)という。
国際海上コンテナでは、40ft背高コンテナの海陸一貫輸送のニーズなどを見極める。とくに日本海側の都市から太平洋側の拠点港へ運ぶニーズの開拓は港湾政策としても重要になることから、具体的な輸送のあり方を含めた調査を実施する。
CO2排出量算定については、貨物鉄道を利用するインセンティブをさらに強化するため、算定手法の精緻化に向けた手法や課題などを整理する。現状の貨物鉄道のCO2排出量は、ディーゼル機関車で運んでも、電気機関車で運んでも排出量に違いがなく、「他モードでも算定の精緻化が進む中で、対応が急務」(同)だという。今後は、Jクレジット制度への申請やESG金融の活用など「鉄道で運ぶとこれだけクレジットをもらえる、という状況にしていくことで、環境にやさしい貨物鉄道の強みをさらに強化していく」(同)ことを目指す。
新幹線による貨物輸送では、中長期的な視点から議論の方向性や課題などを検討する。現状は「ひと言で新幹線の貨物輸送といっても、人によって考えているイメージが違っており、一度交通整理する必要がある」(同)ことから、まずは様々なバリエーションを抽出した上で、それぞれの課題や実現に向けた制約要因などを探っていく。
(2022年9月13日号)