ズームアップ 物流施設、建築費上昇で収支に影響か
物流施設の建築費が急激に上昇し、物流施設開発事業者や投資家の収支・事業想定等に影響を与え始めている。新型コロナウイルス感染症下での金融緩和やEC需要を背景に「安定・成長セクター」として物流施設の開発が活発化したが、ウクライナ情勢と円安が重なり、輸入依存度の高い建築資材のコストが上昇。鉄鉱石や石炭の高騰を背景に、鉄鋼の価格も値上がりしている。開発の採算性の悪化も懸念されている。
エネルギーコストの上昇で鋼材が高騰
不動産情報サービスのJLLによると、2021年の前半頃に想定した物流施設の建築費は40~45万円/坪だったのが、現時点では45~50万円/坪と1年間で概ね5万円/坪、すなわち1割程度上昇。建設物価調査会が公表している倉庫の建築費指数をみても、21年4月の工事原価は121・5だったのが、22年4月には133・5(暫定値)と9・9%の上昇となっている。
昨今の建築費の上昇の要因は鋼材の価格上昇。倉庫も工場も基本的にスケルトンに近い形で建築されることが多く、建築費の多くを躯体が占めていることから、倉庫においても建築費の上昇は、鋼材の価格上昇の寄与度が高いことが推測されるという。鋼材の上昇の原因である、鉄スクラップなどの原材料および電炉等のエネルギーコストの上昇は長期化し、建築費もさらなる上昇か高止まりすることが想定される。
建築費上昇が投資額上振れに強く作用
建築費の上昇は物流施設に限らず、オフィスビルから、「ウッドショック」に見舞われている木造住宅まで幅広い傾向だが、一般的に、物流施設はオフィスビルや住宅などの他のアセットタイプと比べて相対的に地価の低い場所に立地しており、土地と建物を合わせた投資額に対する建物の割合が大きい。このため、建築費の上昇が投資額の上振れに強く作用し、土地価格に与えるインパクトは大きくなるという。
一般的に、物流施設が立地する用途地域である準工業地域、工業地域および工業専用地域における基準容積率は200%が多い。この基準容積率を消化するような物流施設の建築を想定した場合、5万円/坪の建築費の上昇は、総投資額を変えないの場合、土地に対する負担余力を単純計算で10万円/坪縮小させるという。
物流施設賃料の上昇や売却時の利回り低下により吸収できる可能性もあるが、土地価格が相対的に低いエリアでは、「建築費の上昇が地価水準に与える影響は大きい」(JLL)としている。首都圏外縁部の物流施設案件では、建築費の上昇により売主から「希望する土地価格を提示することができない」といった反応がみられるという。また、すでに土地を取得している場合でも、「採算が合わなくなっている」として着工を遅らせるという状況もある。
(2022年6月21日号)