キユーソー流通、ASEAN事業売上高100億円へ
今期スタートした新中期3ヵ年経営計画における基本方針のひとつに「海外展開の基盤拡充」を掲げた、キユーソー流通システム(KRS、本社・東京都調布市、西尾秀明社長)。2006年に進出した中国・上海事業と、20年に現地企業のグループ化により開始したインドネシア事業の安定化で成長への基盤を固めつつ、ASEANにおけるKRS版コールドチェーンネットワークの構築を図る。まずはインドネシア事業における積極的な投資を行い、“圧倒的な規模感をもって”事業優位性の確立をめざす。その上で、同国事業売上高80億円、ASEAN事業売上高100億円を目標に据える。
「優良な会社がインドネシアにいた」
インドネシア事業は、20年10月に同国低温物流最大手のKIAT ANANDAグループ4社株式の51・0%を取得したことで着手。連結化した4社では多様な低温物流アセットを保有しており、22年1月現在で低温・常温トラックは約850台、低温コンテナ約350基、低温倉庫は9拠点・収容能力計16万パレットに上る。主要業務は食品物流を中心に、原料から製品に至る、日系を含む外資系大手外食チェーンや食品メーカー、流通業などの低温物流を担うほか、医薬品物流も展開する。
KIAT ANANDAグループをパートナー相手に選定した理由を経営推進本部海外推進部の髙山典之部長は「対話を重ねる中で、事業の捉え方や経営理念、方針などから、今後の事業展開を共有できると判断した」と説明する。加えて、高いオペレーション品質も備えることにも注目し、「ASEAN地域で複数の有力低温物流会社を視察したが、施設の管理状態、荷物のさばき方、保管状態など現場品質はトップクラスだった」と評価する。
KRSは、ASEANにおいてインドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナムの4国を進出ターゲット市場に据えてきたが、今回、インドネシアが先行したのは「協業相手として優良な会社がいたというだけで、意図的にインドネシアを優先したというわけではない」と髙山氏。とはいえ、同国は人口比でも冷蔵倉庫の庫腹が不足しており、低温物流プレイヤーも少ない。今後の需要拡大が見込まれる有望な市場でありながら、島国ゆえに海上輸送が生じ、国内輸送運賃が高いとの特徴も持つ。「流通の課題に対し、我々のできることは大きいとの考えもあった」という。
グループ化後1年で業務拡大が進展
KIAT ANANDAグループ傘下入りからの約1年間で、インドネシア事業は大きく進展。ひとつは、国内全域に出店する外資系大手外食チェーンの店舗納品業務の受託で、全国12ヵ所の配送デポ運営を開始した。また、同国最大の漁港ジャカルタ・ムアラバル地区では、収容能力2300t規模の水産物専用低温倉庫を新設。さらに、常温物流倉庫を賃借し、低温倉庫に保管されていた常温品を移管することで収益性も高めた。医薬品分野では、GDP認証も取得し、コロナワクチンの輸配送にも携わった。
併せて、インドネシアEC大手による食品デリバリーデポ業務もジャカルタ地域で受託。KIAT ANANDAグループがメインデポを運営し、購入者からのオーダーを受けて周辺デポ12ヵ所への商品供給を行う。デポからは、荷主のバイク便ネットワークで宅配される。インドネシアにおいても、コロナ禍による在宅勤務や巣ごもり需要は増しており、こうした新たな物流ニーズも拡大が見込まれるという。
トップラインの成長に積極的な投資欠かせない
今後の展開については「市場経済の拡大に併せてトップラインを伸ばすとともに、着実に利益を出すことも重視していく」と同氏。今期、まずは今月下旬にスラバヤ第2冷蔵庫の稼働を予定。総投資額約20億円の4温度帯(冷凍・冷蔵・定温・常温)管理倉庫となり、収容能力は2万5000パレットに上る。東インドネシア地区のDC拠点としての位置付けにあり、農産品や輸入業者からの業務受託などで、すでに庫内の5割以上は顧客が決まっているという。引き続き、地域の加工食品メーカーや農産品などの保管需要の取り込みを図る。
前期に新設した水産物専用冷蔵庫のオペレーション効率向上による収益率上昇にも取り組む。これらに併せて、現場オペレーションの効率化と高度化に向けて、ボイスピッキングシステムなども試験導入。輸配送面では、顧客需要に応じて低温トラックも増車する予定にある。
その上で、中長期的な目標値として掲げるインドネシア事業売上高80億円、ASEAN事業売上高100億円に向けて、「圧倒的な規模感を持ち、質と量でマーケットリーダーとしての地位を盤石にする」との方針を掲げる。市場成長の著しいインドネシアでは競合他社によるサービス追随のスピードは速く、価格競争も激しいが、「同じ価格でよりよいサービスを提供できる体制を作り上げられれば、当社の優位性を発揮できる」との考えだ。
トップラインの成長にはアセットの拡大が欠かせず、積極的な投資も計画。倉庫計画としては、バリ倉庫およびパンカラン倉庫の拡張や、中央ジャワ地域、スマトラ島・メダン地域、スラウェシ島、カリマンタン島への新設を検討するとともに、主要都市間を結ぶコールドチェーンネットワーク構築を目指し、自社車両の増車も進める。島しょ間はリーファーコンテナを使用。営業戦略としては、生鮮・農産品や加工食品、外食、レジャー向けの低温物流ニーズ獲得や、医薬品の取扱増も目指す。
他方で、インドネシア事業成長へのポイントは「人」。規模拡大には、現場オペレーション人材の確保と育成が重要となる。並行して、人件費に関するプライスコントロールも重視していく。市場成長に伴い人件費も上昇傾向にあることから、事業の持続性を確保する意味でも、適正価格での受託にこだわる。加えて、「ファイナンス系の整備も必要」として、財務関連のバックアップも行っていく。
コールドチェーンをASEANで“面”展開
KRSでは15年ごろより、ASEANビジネスの検討と市場調査を開始。少子高齢化に伴う日本国内の食品物流市場縮小を見越して、成長が期待されるアジア市場に着目するとともに、強みである低温食品物流サービスのグローバル展開で「ASEAN経済の発展への一翼を担いたい」との思いを抱いた。進出方法は現地企業への出資と対象企業の連結化を前提としながらも、旧経営陣の続投を基本とし、早期の事業基盤確立とその継続性につなげる。荷主構成も外資系企業ありきでなく、ローカル企業の業務受託を重視。他方で、将来的にはASEAN各国へ独資で進出するノウハウも育てたいという。
売上高100億円を当面の目標に据えるASEANビジネスだが、まずは次期中期経営計画(25~27年度)にかけて、マレーシア、フィリピン、ベトナムでマーケットシェアを持つ現地企業との協業を図る。さらに、その次に成長が見込まれるインドやミャンマーといった新市場にも目を向ける。「ASEANにおいては今はまだ点を作っている段階。今後はそれらの点を線で結び、面に広げ、陸と海からコールドチェーンネットワークを拡大したい」と髙山氏は展望する。
(2022年2月15日号)