日本エア・リキード、極低温輸送サービスに本格参入
日本エア・リキード(本社・東京都港区、ヴィルジニー・キャヴァリ社長CEO)は、バイオ医薬品および医療分野に特化した極低温輸送サービスに本格参入した。容器内部の吸着剤に液体窒素を吸着させ、マイナス150℃の温度帯で輸送することができる容器「ドライシッパー」を活用し、バイオ医薬品、ライフサイエンス、臨床試験などの各分野に最適な極低温輸送サービスを総合的に提供していく。メーカーが自社以外の荷物を扱う物流事業に進出する例は珍しい。
ドライシッパーのレンタルと一貫輸送を提供
液体窒素など産業用ガス事業と物流事業のシナジー創出を目指し、エア・リキードグループで極低温の検体(細胞・血液など)および温度管理された輸送ソリューションを専門とするCRYOPDP(クライオピーディーピー)の事業を日本で展開するため、2017年に「CRYO‐PDP事業部」を新設。数年内に事業規模を数倍に拡大する目標を掲げる。
温度を安定させるのが難しいドライアイス輸送法に代わる輸送手段として、ドライシッパーレンタルと一貫輸送を提供するため、貨物利用運送事業の許可を取得。パートナーの運送会社と連携し、ドライシッパー(写真)への液体窒素の充填からユーザーへの集荷、最終目的地までの配達、容器の回収、点検修理までをワンストップで行う体制を構築した。
マイナス150℃対応、3つの輸送メニュー
ユーザーのコールドチェーン輸送ニーズに合った様々な収容サイズのドライシッパーを保有。ドライシッパーは自社にて定期検査を行い、検証済みを確認した上で使用する。輸送中の温度監視をするために温度ロガーを装備。集荷から配達までを監視できる技術的なプラットフォームも備えている。
使用するドライシッパーは国際航空運送協会(IATA)の非感染性生物由来凍結細胞の要件を満たしており、世界的なネットワーク拠点を活用することで、国内のみならず海外への輸送にも対応。輸送にかかわるコーディネートをすべてアウトソーシングできるため、ユーザーは研究や開発、日常業務に集中することができる。
スタンダード、セレニティ、プレミアムと3つの輸送メニューを用意。マイナス150℃を含めて5つの温度帯をカバーできる。ワクチン、幹細胞、動物サンプル、血液、治験サンプル、CAR‐T細胞、DNAサンプル、組織、膜サンプル、iPS細胞、動物由来の受精卵、精子、卵子などを扱える。
産業ガス事業とシナジー、付加価値を提供
極低温輸送サービスの事業化の狙いについて、白濱領一・産業ガス事業本部エマージング統括事業部統括事業部長兼プロジェクトマネージャーは産業用ガス事業とのシナジーを挙げるとともに、「ドライシッパーを単に販売するのではなく、輸送にかかわるサービスをすべて提供することで顧客に付加価値を提供できると考えた」と話す。
窒素充填のインフラや取り扱いの知見を活かした極低温輸送サービスは参入障壁も高い。現在、関西ガスファースト(大阪市淀川区)の1拠点から全国に対応しているが、日本エア・リキードの全国の拠点を活用することも可能で、「輸送距離が長い北海道エリアについては、北海道恵庭工場での対応も検討する」(塚田英治 CRYO‐PDP事業部部長)という。
(2021年12月14日号)