「輸送」項目への対応に苦慮=GDPガイドライン
2018年12月に厚生労働省が発出した、日本版「医薬品の適正流通(GDP)ガイドライン」について、医薬品業界では「輸送」項目への対応に最も苦慮している実態が、27日に開かれた「厚生労働行政推進調査事業成果報告会(写真)」で発表された。日本製薬団体連合会(日薬連、手代木功会長)が19年度に実施した調査で明らかになったもので、輸送中の温度管理や多層構造化している物流委託先管理などで意見が多く寄せられた。
同調査は日薬連品質委員会が、19年9~10月に製薬会社や医薬品卸、輸送会社らを対象に実施した。回答者からの意見や疑問点が最も多かったのはGDPガイドラインの「輸送」項目で、次いで「(倉庫の)温度及び環境管理」、「責任者の任命」だった。また、各項目に対する事例紹介・説明会の希望テーマとしても「輸送」を選んだ回答が最多で、「(倉庫の)温度および環境管理」、「品質システム」、「外部委託した業務の管理」と続いた。
輸送項目ではとくに、「輸送時温度管理の考え方」、「輸送温度マッピング・モニタリング手法・頻度」に関する意見・疑問点が挙げられ、中でも、現在なりゆき温度で運ばれている「室温保管品」の夏季における温度管理輸送の必要性に関する質問は非常に多く寄せられた。このほか、「GDP責任者の定義と組織体制」「委託先業過と管理方法」および「(倉庫における)保管温度マッピング・モニタリング手法・頻度」に関する意見も多数だった。
一方で、寄せられた意見の一部は、日薬連品質委員会が昨年8月に発行した「医薬品の適正流通(GDP)ガイドライン解説」に掲載されていることも紹介。解説書はGDPガイドラインの詳細な説明に加え、GDP業務の共通化・標準化を推進できる内容とされており、今後も継続的な改定を行っていく。また、製薬会社16社による「医薬品流通課題検討会」が作成した「倉庫および車両・コンテナの温度モニタリングとマッピング手法」の具体的な手法なども寄稿されていることが伝えられた。
このほか、日薬連品質委員からは一部の質問への回答もあり、とくに物流の契約委託者については「製薬会社などは物流契約を締結した会社とのみGDPの取り決めを行う必要がある」として、第3社への業務再委託についてはその当事者間で輸送に関する取り決めを行うべきとの方向性も示された。
リードタイム延長や物量平準化がGDP輸送のキーに
報告会では調査結果をもとに、倉庫・輸送における温度マッピングやモニタリング、セキュリティ管理、GDP教育などの事例も紹介された。
アステラス製薬の粟村勇治氏は、18年から4社(武田薬品工業、武田テバファーマ、武田テバ薬品、アステラス製薬)が取り組む北海道での共同物流の進捗を発表。旭運輸の倉庫内で三菱倉庫が運用するもので、同所でのGDPガイドライン具体化や品質システム、手順書の共通化により、複数メーカーながらも単一会社のような運営が可能になった上、センターのGDP監査も4社共同で実施できたという。温度マッピングは2・3階の定温倉庫と2階冷蔵倉庫、外気を計測するが、昨今の異常気象を受け、リスクベースで温度マッピングを追加する必要性についても指摘。さらに、「ワーストケーススタディ」として冷蔵倉庫の空調故障時を想定した検証の成果も報告した。
続いて、倉庫における事例紹介として三井倉庫の福田恭武氏が同社「関東P&Mセンター」における温度モニタリングや計測機器の校正、故障時の対応、警報システムの設定について説明。セキュリティシステムのバリデートは今後の課題で、「設計した警備会社と対応を協議中にある」とした。そのほかの課題として「医薬品は月初に作業工数が1・3~1・5倍に膨れ、逆に月末には作業がゼロになる。大きな物量の波動は働き方改革やGDPへの対応を難しくする場面もでてくる」と訴えた。
輸送の事例紹介を担当した、医薬品輸送事業者協議会の赤澤善博会長(中央運輸社長)も医薬品業界で慣例化する物量波動に言及。運送会社側も、保冷車の利用や物流センターの温度管理、防虫防鼠対策、セキュリティなどGDPへの対応を強めており、同協議会が展開するGDP準拠の医薬品共同配送サービス「ダイレクトクール」なども展開するが、「物流課題とGDP対応を同時に進めなければ安定供給に支障をきたす」と警鐘を鳴らした。
GDPガイドラインの発出で室温品をはじめとする輸送中の温度管理が厳格化されると、月初や大型連休前、薬価改定時に生じる物量増で温度管理車両の不足が見込まれることを指摘。セキュリティ面においても、路線便のターミナルでの扱いが課題となっており、「室温品の休日またぎ配送の見直しや、臨時運行車両が出ないように物量を平準化することがGDP輸送推進のキーになる」と医薬品業界へ協力を呼びかけ、ホワイト物流推進運動への賛同なども提案した。
三菱倉庫子会社のDPネットワークは、医薬品輸送に携わる運送会社向けのサービスとして開発した「GDP教育支援サービス」を取り上げ、同社が展開するGDP対応の保冷医薬品共同輸送サービス「DPCool」の乗務員に実施している教育の事例を紹介した。
GDPの政省令化は「まだまだ時間かかる」
日本版GDPガイドラインは18年12月28日に厚生労働省から発出され、19年度は英語版の作成や法的根拠の整理、関係研究会や報告会の開催などで周知普及が進められてきた。報告会の冒頭、厚生労働省医薬・生活衛生局総務課薬事企画官の安川孝志氏は、「ガイドラインには周知が必要な課題も多く、まずは実質的な取り組みを業界の協力の下でしっかりと進めてほしい」とした上で、GDPの政省令化については「色々な問題があり、まだまだ時間がかかるもので、急に義務化されることはない」ことを強調した。
なお、報告会後に設けられた質疑応答では参加者から輸送に関する質問が多く寄せられ、医薬品輸送事業者協議会の発表に関連する「『ホワイト物流』推進運動に厚生労働省が参加する意向はあるのか」との問いかけに、GDP研究班の木村和子・金沢大学特任教授が「厚労省としてすぐには回答できないだろうが、要望が出たことを伝えることはできる」と応える一幕もあった。
(2020年1月30日号)