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【物流・運賃】荷主にトラック運賃のコスト構造を可視化

2018.01.25

トラックドライバー不足の深刻化と荷動き回復により、運賃の上昇が続いている。年末繁忙期には車両確保に窮する荷主の足元を見て、価格を過剰に釣り上げたオファーも散見され、運賃は「時価」の様相を呈してきた。国土交通省では運賃のコスト構造を荷主向けに分かりやすく示すための手引き作成に向け検討を開始。これまで見えにくかったコスト構造が可視化されれば、荷主もトラック事業者も価格交渉に際しお互いに“武装”でき、双方の共通理解のもとで「持続可能な適正運賃」が形成されていく可能性がある。

好況の裏に“後出しじゃんけん”“逆どんぶり勘定”も

トラックドライバー不足が社会問題化し、荷主も危機感を抱く中、トラック事業者と荷主の価格交渉の成果が実を結び始めている。求荷求車情報ネットワーク(WebKIT)の12月の成約運賃指数は調査開始以来の最高値となったほか、帝国データバンクの調査でも、12月の「運輸・倉庫」の景況感は過去最高を更新した。

しかし、好況の裏ではスポット案件を中心に、いったん受注を断り、価格が釣り上がるのを待って受注する“後出しじゃんけん”、「○○万円くれるならやります」という“逆どんぶり勘定”のような状況もみられるようになった。ドライバー確保の原資にするという大義名分のもと「いま原価計算なんかやっていたら損する。稼げるうちに稼がないと」という声も聞こえてくる。

1990年の規制緩和以降、貨物量が3割減って事業者数が5割増加する過当競争により、原価を下回る受注が横行したことで、長らく運賃の低水準マーケットが形成されていた。トラック運送が買い手市場から売り手市場に反転したいま、“刹那的”な取引姿勢そのものが変わっていないことや原価意識が根付かない業界体質に、冷ややかな視線を送る荷主も少なくない。

市況に影響を与えることはないが、コスト管理のツールに?

国交省ではトラック事業者の適正運賃・料金の収受に向けた新たな取り組みとして、運賃の中身にどのようなコストがかかっているか、荷主とトラック事業者の共通理解を促すための手引きの策定に着手した。トラック運送業の適正運賃・料金検討部会(藤井聡座長、京都大学大学院教授)で2月以降、本格的な検討が始まる。

トラック運送事業を営む上でかかっている車両の購入・更新、点検・整備等のメンテナンス、ドライバー確保、燃料費、保険加入など「外部から見えにくい」コストについて荷主にも分かりやすく示すことで、「トラック運賃を低い水準から適正に“引き上げて”いく」(自動車局貨物課)のが手引き策定の狙いだ。

国交省では「具体的なコストの額を明示するわけではないので、運賃市況に影響を与えることはない」(同)と言うが、これまで見えにくいとされたトラック運送事業のコストの中身が可視化されることによって、国交省が目論む適正な水準への引き上げのみならず、一方では荷主側のコスト管理のツールとなることも考えられる。

荷主は、「原価構造の中で原料費に重きを置いており、物流費はできるだけ下げたい。しかし、トラック事業者と情報交換しながら、適正な運賃・料金を分析し、いままで十分でなかったのであればその分は払うつもりだ」(食品メーカー)など協力的な姿勢もみられ、手引きが情報交換や分析に活用されていくことが期待される。

今だからこそ、相互信頼による運賃収受を

世間からの物流危機に対する理解や同情が集まっている中、トラック事業者側の“後出しじゃんけん”や“逆どんぶり勘定”といった取引姿勢は、逆に荷主や社会の信頼を損ないかねない。荷況が悪化して再び買い手市場になった際に、安値受注と運賃・料金水準の低迷を繰り返さないためにも、荷主と事業者双方の“見える化”を通じて持続可能な適正運賃・料金を収受していく意識転換が求められている。
(2018年1月25日号)


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