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【ズームアップ】タクシーの荷物配送、全国に広がる

2020.05.07

新型コロナウイルスの感染拡大による外出の自粛で、タクシーの利用が激減していることを受け、国土交通省では4月21日、全国のタクシー事業者が飲食物に限定して荷物の配送を行えるように道路運送法の特例措置を開始した。申請が始まった22日から28日までの間、すでに全国で約280社を超えるタクシー会社が許可を受けており、注目度の高さがうかがえる。特例措置は5月13日までの時限だが、食品などの宅配需要が急増していく中、今後規制緩和の議論も注視していく必要がある。

特例措置、感染症拡大状況により延長も?

タクシー、バスなど旅客自動車運送について定めた道路運送法では、貨物の有償輸送を貨物事業者の利害を損なわず、公共の福祉を増進させる場合などで例外的に認めている。今回のタクシーによる荷物配送は特例措置であり、許可期間は13日まで。ただ、今後の感染症の拡大状況によっては外出の自粛期間が延びるため、延長の可能性もあるという。
特例措置の発表後、タクシー事業者の申請が相次いでいる。

最大手の日本交通(本社・東京都千代田区、知識賢治社長)は22日に東京都内で初となる許可を受け、25日からサービスを開始。ミシュランの星付きの中国料理・麻布十番「富麗華(ふれいか)」と高級ステーキハウスとして知られる「ウルフギャング・ステーキハウス by ウルフギャング・ズウィナー」(ウルフギャング)の配送を東京23区、武蔵野市、三鷹市を対象に行う。配送料金は店舗ごとに対応する。

また、MKグループのエムケイ(京都MK、本社・京都市港区、青木信明社長)と札幌エムケイ(札幌MK、本社・札幌市白石区、同)も22日に許可を受け、28日から飲食店向け宅配サービスをスタート。今月6日までの限定サービスでは宅配1回で110円(税込)とし、7日から13日までは1回550円(同)とした。対象地域は、京都MKが京都市内(旧京北町を除く)、札幌MKが札幌市中央区、白石区、豊平区。利用できる店舗は、届け先の飲食物の料金精算の際に直接届け先と事前または事後に決済できる飲食店とした。
その他にも全国で地域をエリアとする中小事業者などが、外出を自粛する地域住民を支援するサービスを展開。今後の自粛期間延長に伴う利用店舗の拡大によっては大手・中小事業者の参入が広がると見込まれる。

国交省自動車局貨物課では「感染症拡大に伴う自粛により飲食店に出かけられない住民への配送需要に対応してほしい」としたうえで、「あくまでも特例措置であるため、飲食物以外の荷物まで拡大して配送することは許可していない。タクシー会社には本来の事業である旅客運送をしっかり行った上で、荷物輸送に従事していただきたい」と強調する。
なお、2017年9月に実施された規制緩和により、それ以前から実施されていた乗り合いバスによる貨客混載に加え、過疎地域に限定してタクシーと貸切バスでも旅客運送と貨物運送の「かけもち」が可能となった。また、翌18年に出された政府の規制改革推進会議の第3次答申では、忘れ物のお届けやペットの運送といった貨物運送に類似した「救援タクシー」サービスの範囲を拡大するよう提言が出されたが、国交省では貨物運送との棲み分けが明確でないことから難色を示していた。

今回のタクシーの宅配は新型コロナ感染拡大という非常時に対応した特例として実施されている。その一方で、政府では輸送資源の総動員による移動手段の確保や多様な移動サービスの統合的活用などMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)実現に向けた施策に取り組んでいることから、タクシーによる貨物運送の取り扱い範囲拡大について、あらためて検討すべきとの声も一部から出てきている。
(2020年5月7日号)


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