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【荷主レポート】日本初、フレキシタンクで鉄道輸送=釜石鉱山

2020.03.26

飲料水「仙人秘水」や化粧品向け原料水の製造販売を行う釜石鉱山(本社・岩手県釜石市、山澤茂行社長) は三八五通運、JR貨物、日本物流とともに、日本で初めてフレキシタンクを活用した12ftコンテナによる鉄道輸送を実現した。海上コンテナ輸送では馴染みの深いフレキシタンクだが、国内の鉄道輸送では初の試み。様々な課題を4社が連携して乗り越え、積載率の向上や取扱量の拡大、そしてCO2排出量の削減を達成し、今年度の「グリーン物流パートナーシップ会議特別賞」も受賞した。

原料水の出荷増で輸送方法の検討を開始

釜石鉱山は160年の歴史を持ち、わが国最大の鉄鉱山として日本の近代化を支えてきた。現在は、坑道に湧き出る弱アルカリ性軟水を飲料水や化粧品向けの原料水として製造販売する「鉱泉水事業」が主力。売上高(2018年度)の内訳は鉱泉水事業が92%を占め、坑内構造と坑内湧水を活用した「水力発電事業」が7%、鉄鉱石の残鉱を販売する鉱山事業が1%となっている。

鉱泉水事業には、①非加熱ミネラルウォーターである「仙人秘水」、②災害備蓄用飲料、③化粧品向け原料水――の3事業柱がある。このうち「仙人秘水」は国際味覚審査機構の最高評価三ツ星を7年連続で取得し、ダイヤモンド味覚賞、モンドセレクション優秀品質最高金賞も受賞する、自慢のナチュラル・ミネラルウォーター。商品名は、鉱山が位置する仙人峠にちなんで名付けられている。
今回、フレキシタンクによる鉄道輸送に取り組んだのは、化粧品用向けの原料水。良品計画が製造販売する「無印良品」ブランドの基礎化粧品には、この釜石鉱山の原料水が使用されており、その品質が評価されて出荷量は年々増加を続けてきた。輸送には従来、200ℓ専用のドラム缶と1000ℓの立方体容器を用いて鉄道12ftコンテナで運んでいたが、使用量の拡大により納品先工場でのタンクへの移し替え作業が煩雑化。作業効率の向上のため「出荷容器を大型化できないか」との要望が釜石鉱山へ寄せられていた。

また、ドラム缶と1000ℓ容器はリターナブル容器であることから、使用後は返送および洗浄作業が必要となり、容器を再度利用するまでに時間が掛かっていた。さらに、1000ℓ容器はレンタル品でリース料も発生。12ftコンテナへの積載率も課題で、コンテナ1基に積載できるのはドラム缶で23本、重量約4・4tとなりコンテナ積載率は88%。1000ℓ容器では4基、4t分で積載率は80%に留まっていた。納品先工場での作業改善と積載率の向上を目指し、輸送容器の検討をスタートした。

鉄道輸送に適したフレキシタンクを開発

まず、原料水を大量に運ぶ方法としてタンクローリー、20ftタンクコンテナ、トラック用タンクコンテナ、フレキシタンクによる輸送を検証。このうち、タンクローリーと20ftタンクコンテナは釜石鉱山の製造工場への乗り入れが困難なことから輸送は不可と判断した。20ftタンクコンテナの鉄道輸送についても、最寄りの水沢駅(岩手県)が取り扱いに対応していなかったことから断念。12ftコンテナの輸送に適合させた改良型フレキシタンクを開発し、採用することにした。

フレキシタンクは近年、液体の海上輸送などで使用が定着しつつあるが、鉄道12ftコンテナによる輸送実績はまだなかった。そこで、釜石鉱山と日本物流が協力し、タンクの形状を枕型から箱型へと改良することでコンテナ壁面への負担を軽減させ、4900ℓの積載を可能とした改良型のフレキシタンク「仙人タンク」を完成させた。

しかし、仙人タンクの試作機で充填試験を行ったところ、従来設備では充填時間に1000ℓ容器の約3倍の1時間を要することが判明。充填時間が長引けば、トラックの待機に伴う集荷・配達コストの上昇につながってしまう。問題の解決に向けて、これまで充填済みの1000ℓ容器を保管していたスペースを使用して、新たに3tのサービスタンクと大型容器専用充填設備を導入。充填時間を40分へと短縮するとともに、集配トラックの入庫スペースも確保し、車上の12ftコンテナに据え付けたタンクへ直接原料水を充填できる体制を整備した。

さらに、昨年9月には工場内に10tフォークリフトを導入するとともに、フォークリフトが走行できるよう工場敷地内を全面舗装した。水源から採取できる時間当たりの水量が一定であることからタンクの充填にはどうしても時間を要してしまうが、フォークリフトを用意したことで、トラック到着時にあらかじめ充填しておいたコンテナをすぐに積んで出荷できるようになり、トラックの回転率向上に寄与した。

加えて、化粧品原料水は殺菌のため70℃に熱して仙人タンクへ充填する。作業場は高温環境となり、タンクの上で従事する作業者の熱中症なども懸念されたが、出荷場に新たに空調機を設置することで対策を整えた。

これらに合わせて、JR貨物が主体となって、仙人タンクの安全輸送に向けた実証実験も実施。スケルトンコンテナを用いて、急発進や急制動などの動揺を評価するとともに、振動加速度を測定することで輸送の基礎データを蓄積した。その結果、通常扱い時は養生などがなくても問題が発生しないことが推定されたが、急ブレーキ発生時には想定以上の動揺が発生し、輸送の安全性を保つため、ラッシングベルト11本による固縛を行うこととした。その上で、固縛時の作業性を高めるため、三八五通運がベルトを網状に固定した専用ベルトを開発。仙人タンクの12ftコンテナへの効率的な固縛と、輸送中の動揺抑制による安全性の確保を両立させた。

作業効率が向上、CO2排出量も大幅削減

一連の取り組みを経て、17年4月から仙人タンクによる12ft鉄道コンテナ輸送が水沢駅~安治川口駅(大阪府)で実現。安治川口駅からは、通運会社のトラックで兵庫県尼崎市の納品先工場へ搬入される。仙人タンクは昨年11月末までに964袋が出荷され、破袋などは1件も発生していないという。12ftコンテナへの積載率も1000ℓ容器に対して20%向上。32ヵ月分の累計運搬量は、1000ℓ容器による輸送時に比べて868t増加したことになる。

納品先工場での原料水の抜き出し作業も、ドラム缶では平均で24・5回、1000ℓ容器では同4・9回あったものが、仙人タンクでは1回で済むことから、荷役作業効率が上昇。CO2排出量もトラック輸送に比べて年間563t削減し、削減率は82%に上った。

「貨物駅での留め置きが可能なことも、鉄道輸送の利点のひとつ」と総務部の太田学部長は話す。18年度は12ftコンテナ4基を毎日発送したが、納品先工場の状況に応じて貨物駅で一時保管し、出荷を調整することができた。鉱泉水事業部の瀧澤仁部長も「仙人タンクを採用することで、お客様である納品先工場のニーズに応えることができた」と振り返る。
山澤社長は「今回の事例は4社がそれぞれの持ち場で努力を重ね、一致団結して実現したもの。これにより、積載率の向上と荷役作業の軽減、取扱量の増加、コスト削減が実現し、各社にとってWin‐Winの関係が構築された。今後の液体輸送の可能性を広め、製造・物流両業界の活性化につながることを期待している」と展望する。
(2020年3月26日号)


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