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【レポート】特積みトラック業界の将来展望

2019.07.25

日本の国内物流の9割を担うトラック輸送。なかでも特積みトラックが担う長距離幹線輸送は、日本の物流の屋台骨を支える〝背骨〟のような存在だといえる。その特積み業界でもドライバー不足や高齢化に加え、コンプライアンス強化や働き方改革の影響により、これまでのような〝運び方〟が困難な状況が出始めている。荷動き、運賃、共同化・標準化、コンプライアンスなど特積み業界を巡る現状と将来に向けた課題を整理してみた。

①荷動き 今期の荷動きは低調に推移か?

まず足元の荷動きは、ここにきて低調が伝えられる。5月は10連休となったGWがあったため営業日数が少なく、6月も営業日が前年に比べて1日少ない上に、G20大阪サミット開催による影響もあった。しかし、そうした要素を考慮しても荷動きは鈍化傾向にあるようだ。7月に入っても天候の影響からか、「盛り上がりに欠ける」といった関係者からの声が多い。

今後の見通しについても、楽観的な要素は少ない。10月の消費増税前の駆け込み需要で一時的に取扱量は増えるとの指摘はあるものの、「駆け込み需要といっても、前回の増税時ほどではない。むしろ、10月以降の反動減が気になる」といった懸念が広がっている。

昨年は7月の西日本豪雨でJR貨物の山陽線が不通となり、その分が特積みに流れたこともあって、7月以降の前同実績はその反動からさらに厳しくなるだろうとの指摘もある。さらに、米中貿易摩擦の影響が国内荷動きにも及ぶとの見通しもある。こうした関係者の声を総合すると、今年度の特積みトラックの総輸送量は「良くて横ばいか、やや前年を下回るのではないか」といった予測が支配的だ。

②運賃・料金 「昭和運賃」からの決別を

前期までの特積みトラック各社の業績を見ると、運賃値上げが奏功し大幅な増益を達成したところが多かった。今期についても、ドライバーの待遇改善や傭車費などのコストが上昇しており、各社とも「引き続き適正料金の収受や、附帯作業の有料化、待機時間短縮、作業条件の改善などを求めていく」としている。ただ、すでに運賃交渉が一巡、二巡していることに加え、足元の荷動きが低調なことから「普通に考えて、今期はやりづらい」との声も出ている。

一概に「適正運賃収受」といっても、顧客ごとに収受できている実勢運賃は千差万別。また、すでに一定の値上げを受け入れた顧客や交渉継続中の顧客など様々な状況がある。ある特積み関係者は「前期や前々期に値上げを受け入れてもらった顧客については今期は厳しいだろう。しかし、値上げを拒絶されたり、値上げしてもらったものの元々の水準が低すぎて依然としてコスト割れの顧客も少なくない。運賃交渉の余地はまだまだ残されている」と語る。

そうした特積み関係者の中で、最近多く聞かれる言葉が「昭和運賃からの決別」だ。トラック運賃は、物流二法の施行により届出制に移行したが、今でも「昭和57年運賃」「昭和60年運賃」といった認可運賃時代のタリフが荷主との交渉のベースになっていることが少なくない。ある関係者は「そもそも令和の時代になって昭和時代の運賃が残っていることが普通ではない。せめて〝昭和運賃〟はなくさないと、とてもではないがコスト的にやっていけない」と強調する。

各社とも引き続き適正運賃収受に注力することは間違いないものの、他方で懸念されているのが、荷動き鈍化に伴う〝局地的なダンピング〟だ。地方によっては、荷動きが低調になって便が満載にならないと、路線維持のための固定費が経営を圧迫することになる。そうなった場合、「多少運賃を安くしてでも積載量を確保したい」という動きが顕在化する可能性がある。「各社とも総論ではダンピングは良くないと分かっていても、エリアによっては背に腹は替えられない状況が起こることもあり得る」というが…。

③土日休配 焦点は土曜日の集荷休止か?

いま、特積みトラック業界でもっともホットなトピックのひとつが「土日休配」だ。働き方改革の一環から、業界でも完全週休2日制を目指す動きが活発になっており、その際の焦点になるのが、土日における集荷配達の休止だ。

もともと特積み業界では土日は荷物量が少なく、集配業務や運行便を設定すればコスト割れとなるため、「以前からやめたいのが本音」だったという。しかし、顧客との関係や同業他社に荷物が流れることへの懸念から「各社ともやめるにやめられないのが実情だった」ようだ。

だが、特積み各社の動向を見ると、日曜日に関しては一部の例外を除いて集配活動を休む流れが加速している。一方、土曜日については「集荷はやめたいが、配達はやらざるを得ない」といった辺りが現状における〝平均値〟のようだ。関係者の一人は「集荷をすれば、必然的に運行便を設定しなければならないために固定費がかかる。配達業務に関しては、土曜日も営業している商店などへの配達をいきなりやめるのは厳しい」と実情を明かす。ただ、各社とも土曜日配達の荷物には専用ラベルを貼付するなど、事前に荷物量を把握することで戦力適正化によるコストコントロールを図る動きが進んでいる。

働き方改革やドライバーの時短が進む一方で、今後大きな課題となってきそうなのがドライバーの手取り収入の減少だ。ドライバーの給与体系は基本給の割合が低く歩合給が高いため、労働時間が短くなれば実質の身入りが減ってしまう。今後は、働き方改革と並行して、賃金制度の見直しが必至になるだろうと指摘する関係者は多い。

④共同化・標準化 カギはユニットロードの推進

共同化も特積み業界の大きなテーマとなっている。とくに長距離幹線は、ドライバーの高齢化が深刻な課題となっており、ネットワークを維持していくための共同化やシェアリングは喫緊の課題といえる。

その象徴的な取り組みのひとつが、全国物流ネットワーク協会(全流協、森日出男会長)が主導する全長25mのダブル連結トレーラ「スーパーフルトレーラ25(SF25)」による幹線共同化だ。今年3月に関東~関西間でスタートした共同化には、ヤマト運輸、日本通運、日本郵便、西濃運輸の4社が参画。一人のドライバーが大型車2台分の荷物を運べることもあり、新技術を絡めた共同化スキームとして高い注目を浴びている。ただ、現状においては運行路線が限られていることに加え、投資コストもかかるために、急激に拡大することは難しいとの指摘もある。

他方、特積み業界では古くから「連絡輸送」と呼ばれる共同化もある。強みを持つ路線やエリアを相互委託するものだが、こうした取り組みも今後はさらに広がっていくことが予想される。

共同化やシェアリングのさらなる拡大に不可欠なのが「標準化」や「ユニットロード化」だ。業界関係者の多くが「今後、同業他社との協業が加速すれば、サービスを揃えるための標準化が必要になる」と口を揃える。そのため、例えば長尺荷物や非定型荷物など積合せ輸送に不向きな荷物については路線便とは別のネットワークに集約するといった取り組みが求められるようになる。

さらに将来的には、ロールボックスやパレットの活用も避けられない。「今後はドライバーだけでなく、ターミナルの作業員も不足してくる。荷役効率化のためにボックス単位、ユニット単位で〝売る〟必要が増えてくる」との指摘だ。こうした、業界共通の課題を解決する存在として、有力特積み各社が共同出資するボックスチャーター(本社・東京都千代田区、岩﨑納樹社長)がある。同社が展開する「JITBOXチャーター便」はロールボックス単位で輸送を共同化するのが最大の特長だが、同様の取り組みは今後さらに広がっていくと考えられる。

また、今後は配達効率の悪いエリアにおける集配共同化もさらに進むことが予想される。具体的には、こうしたエリアに密度の濃いネットワークを張る特定の事業者に集配を委託する動きが加速しそうだ。

もう少し中長期の将来を展望すると、特積み事業者の合併など再編が進むとの予測もある。ある関係者は「今後、人口減少が進む中で国内貨物量が増えることはない。その時に、徐々に老朽化していくターミナル施設など単独で更新していくことが可能なのか。合併や吸収まで進むかは別として、ターミナルの共同利用といった協業化はさらに増えるだろう」との見通しを示す。

⑤サービスレベル 関東西部問題が突きつけた〝構造課題〟

今年4月、関東西部運輸が貨物自動車運送事業法に基づく事業許可の取消処分を受けたことは、特積み業界に大きな衝撃を与えた。度重なる法令違反を繰り返した結果の処分だが、同社は処分を不服として申立てを行ったものの、最終的には申立てを取り下げたことで5月末に処分が確定した。

関東西部運輸は広島に本社を置く西部運輸グループの中核会社のひとつで、本社営業所を含む計8支店・営業所で計374台の車両を保有。複数の特積み事業者の長距離幹線運送の下請けとして近年急成長を遂げてきた。今回の処分の基本は、同社のコンプライアンスを度外視した企業体質にあることは間違いないが、その一方で、特積み各社に残っていた無理な運行体系が下請けである同社にシワ寄せられていった〝構造問題〟だとの指摘も一部にある。

特積み各社は近年、コンプライアンス強化の流れを受けて、改善基準告示違反となる可能性のある運行ダイヤの見直しやリードタイムの延長を進めている。関係者は「改善基準告示を厳密に遵守すれば、東京を起点にして翌日配達が可能な地域は、西は岡山あたり、北は盛岡あたりが限界。しかし、さらに遠距離まで翌日配達のビジネスモデルが根強く残っていることも事実」と打ち明ける。最近は、荷主とのリードタイム延長についての折衝を繰り返しているというが、「例えば、広島はどうしても3日目になると伝えると、荷主は『じゃあ、翌日配達してくれる業者に代える』と言われてしまう。このままでは、無理な運行体系やサービスレベルはなかなか改善できない」と吐露する。

そこで、ある特積み業界関係者が提起するのは、行政が「標準的な輸送ダイヤ」を示す案だ。ドライバーの1日当たりの総拘束時間は13時間。このうち、大型車への荷物の積み込みに2時間、荷降ろしに2時間の計4時間がかかると仮定すると、残り9時間の間に4時間ごとに30分の休憩を挟めば、自ずと走行可能な距離は見えてくるはず、と指摘する。「例えば、定期運行している路線便の場合、こうした標準的な運行ダイヤのモデルを行政が示さないと、いつまでも荷主との力関係の中で〝グレー〟な運行体系はなくならない」という。「例えば、ロールボックスなどを使って積み降ろし作業を効率したり、中継輸送を使えば輸送できる距離を伸ばすことができる。そこが各社の競争力になる」と語る。
(2019年7月25日号)


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