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徹底した顧客第一主義が3PL事業として開花した

近年、大手物流企業の中で、最も高い成長率を続けている1社が丸全昭和運輸(本社・横浜市中区)だ。京浜港の港運事業から創業し、近年ではM&Aなどを駆使した3PL事業が急拡大。また、タンクターミナルなど装置物流への傾注など特長ある経営でも注目される。同社の浅井社長に経営戦略を聞いた。
(インタビュアー/西村旦・本紙編集長)

人手不足と働き方改革への対応が最大のテーマ

 

――いま、「物流危機」が顕在化していると盛んに言われていますが、どのようなご認識をお持ちでしょうか?

浅井 我々物流業界を取り巻く環境変化の中で、いまいちばん危機意識を持っているのは、人手不足と働き方改革に伴う規制強化です。巷間よく使われている「物流危機」「物流クライシス」といった言い方も、人手不足に端を発して物流業界が抱える様々な課題が表面化してきたものだと捉えています。

我が国の少子高齢化はこれまでもずっと続いており、2019年の新成人が125万人であるのに対し、新生児の数はこのところ100万人を切っています。つまり、20年後に成人を迎える人数は間違いなく現状よりも2割減るということであり、このことが日本社会が抱えている大きな構造的課題です。

そして、我々が働く物流業界は以前から人が集まりづらい業界だと言われてきました。最近でこそあまり使われなくなりましたが「3K職場」などという有難くない言い方もされ、他業界に比べて人が集まりにくい状況がずっと続いてきました。当社に限らず物流業界全体として、そうした課題や宿命を長らく背負っています。

そうした状況を打破して、魅力ある業界に脱皮していくことが、現下最も重要な課題だと認識しています。そのためには、長時間労働の是正や賃金・福利厚生面のレベルアップなど労働条件を変えていき、“人を呼び込める業界”にしていくことが何より必要だと思っています。

 

6期連続増収増益を牽引する3PL事業

 

――御社の働き方改革に関連した取り組みの詳細については後ほど伺います。ところで、御社の近年の業績を見ますと、6期連続の増収増益を続けられるなど非常に好調です。その要因は何であるとお考えでしょうか?

浅井 最初に挙げられるのは3PL事業が順調に拡大を続けていることです。当社は1931年(昭和6年)に横浜港のはしけ回漕業からスタートし、京浜工業地帯の発展に伴走しながら得意先様の構内作業の受託などで業容を拡大してきました。その中で絶えず意識してきたのは、顧客第一主義でお客様に最も適合したシステムを組むという方針です。そうした姿勢が近年になって3PLという形で開花してきました。現在、3PL事業の売上高は総売上高の25%程度、金額にして300億円弱まで育ってきました。住宅関連や化学品メーカーなどが中心ですが、近年では日用品、学習教材など消費財系の川下領域にもチャレンジしています。

 

――創業以来培ってきた、顧客に寄り添うというDNAが3PLの成長エンジンになっているということですね。

浅井 そうです。それと、もうひとつの成長の原動力はM&Aです。当社は以前からM&Aには力を入れてきましたが、最近では15年2月に日本電産様の物流子会社である日本電産ロジステック(現・丸全電産ロジステック)を子会社しました。現在では100億円近い売上げとなっており、当社グループの成長に貢献しています。また、今年7月には持分法適用子会社だった国際埠頭の出資比率を従来の35・52%から85・62%に引き上げ、連結子会社化しています。

成長を牽引する3PL事業(写真は堺倉庫営業所)

 

M&Aのターゲットは「奥に物流業務がある」こと

 

――今期からスタートした新中期経営計画(第7次中期経営計画)では、最終年度となる21年度(22年3月期)までに連結売上高を1410億円まで引き上げる計画です。その中で、期間中に100億円の資金をM&Aに充当される方針ですが、おもなターゲットはどのようなカテゴリーを考えていますか?

浅井 そこははっきりしていまして、ひとことで言えば「奥に物流業務がある」ということに尽きます。単純に同業の物流会社を買収して規模を大きくするということではなく、株式取得によって新たな物流業務を獲得できるということを重視しています。日本電産ロジステックのような物流子会社をグループ化することがまさにその戦略に該当します。

当社のM&Aの歴史を簡単に振り返ってみますと、第1期にあたるのが、昭和30年代から40年代にかけて地方のトラック運送業者を相次いで買収していった時期です。さきほど当社がはしけ回漕業からスタートしたと申し上げましたが、ちょうど海から陸に業容を拡大していった時期に当たります。当時はM&Aという意識はあまりなく、むしろ買収を通じてトラックの路線免許を取得してネットワークを全国に拡大していったということです。

続いて第2期に当たるのが、物流子会社を対象としたM&Aです。02年に昭和電工様の子会社である昭和物流と昭和アルミサービスをグループ化したほか、04年にはライオン様のグループ会社であるスマイルライン、06年にもライオン系列の武州運輸倉庫をグループに組み入れました。3PL事業を拡大する戦略の一環として、“奥に物流業務”つまり背後にしっかりした荷主様の荷物がある会社をターゲットにしています。

 

ASEANを中心にグローバル事業を拡大していく

 

――中期経営計画を見ますと、3PLと並ぶ成長源としてグローバル事業の拡大を挙げています。

浅井 そうですね。当社グループのグローバル事業は、同業他社と比べてまだまだ遅れているというのが偽らざる現状です。足元の状況で売上高の4%程度ですが、これを当面110億円、現在の売上高構成比で10%程度まで拡大しようと社内で発破をかけています。遅れている分、成長余地が多く残されているとも言えます。

重点エリアは何と言ってもASEANです。マレーシアでは10月から消費財関連企業の倉庫業務を受注したほか、住宅関連資材をインドネシアの現地工場から日本まで運ぶ仕事もスタートしました。

また、ベトナムでも年度内にも自営倉庫を稼働予定です。その関連でベトナム法人の現地女性マネージャーを日本に呼んで、当社の業務ノウハウを研修させるなど現地でのサービスレベルの向上を目的とした教育研修にも力を入れています。

 

――その他の地域での展開はいかがでしょうか?

浅井 メキシコにも、双日ロジスティクス様との合弁で進出しています。当初は自動車産業をターゲットにしていましたが、トランプ政権の誕生によるメキシコでの自動車関連事業への影響が懸念されています。ただ、当社とお付き合いが深い日本電産グループ様が現地に工場を建設していますので、それに関連する物流業務を中心に、ゆくゆくは倉庫などのアセットを持ちながらメキシコでの事業を拡大していきたいと考えています。

また、北米ではロサンゼルスの2ヵ所でフルーツなど青果物の小分け作業なども行っています。ニュージーランド産のキウイフルーツやアボカドなどをパック詰めしてスーパーなどに納入する仕事で、順調に拡大しています。ただ、人手を要する仕事なので、作業者の確保などが今後の課題です。

ASEANを中心にネットワークを拡大(写真はマレーシアのロジスティクスセンター)

 

人手を要しない装置型物流事業に注力していく

 

――御社の事業戦略の中で、非常に特徴的であり注目しているのが、装置型事業への注力と経営資源の投入です。とくに茨城県の鹿島地区では、鹿島タンクターミナルや鹿島バルクターミナルなどの装置型ビジネスに力を入れています。

浅井 鹿島地区は67年に進出して以来、当社グループの重要エリアのひとつです。京浜港と同様、メーカーの業務を一貫して受託する中で、危険物を含む化学品のタンクターミナル事業へと発展してきた経緯があります。また、鹿島バルクターミナルでは昨年、火力発電所に供給する石炭の供給基地として近代的な貯炭場を新設しました。火力発電所はバイオマス混焼であるため、当社が指定可燃物倉庫を建設し木質ペレットを保管しています。当社は鹿島港で港湾運送の水切り(陸揚げ)もできるので、一貫したオペレーションができるのが強みだと思います。また、こうした装置型のビジネスは、一般貨物などの通常の物流業務と比較すると、人手がそれほどいらないので、この時勢にマッチングしたビジネスではないかと思っています。

 

――人手不足が叫ばれる中、元々持っていた自社の強みを今の時代にうまく活かされていますね。

浅井 とくに意識していたというわけではないのですが、結果的にそうなってきた。時代の流れにうまく合致したということです。私自身は、何の違和感もなく自然に経営のハンドルを切ったに過ぎません。

 

――ご謙遜されていますが、今年7月に実施した国際埠頭の連結化もそうした戦略の一環と捉えることができます。

浅井 そうですね(笑)。鹿島タンクターミナル、鹿島バルクターミナルと同様、人手をあまり要しない装置型の物流事業という意味では一緒です。国際埠頭は元々、当社の創業者(初代社長の中村全宏氏)が東洋一のバルク埠頭を建設するというビジョンのもとに企画・設立した会社であり、そういう意味では当社にとっても思い入れの深い会社です。当初は工業塩や穀物などの保管や取り扱いをメインにしていましたが、近年は火力発電所向けの貯炭場の運営に力を入れていることもあって、出資比率を引き上げて連結子会社化しました。

鹿島バルクターミナル

 

底堅い需要の危険物倉庫をネットワーク化

 

――危険物倉庫の整備も着々と進められています。

浅井 全国的に進めています。まず11月に茨城県神栖市の南海浜倉庫営業所で危険物倉庫2棟、計2000㎡が竣工するのに続き、横浜市金沢区にある輸出梱包センターでも今年度中に約140㎡の危険物倉庫を整備する計画です。さらに、21年度には宮城県岩沼市に約500㎡の危険物倉庫を計画しているほか、関西1ヵ所や関東内陸部1ヵ所、中部地区2ヵ所で計4ヵ所の危険物倉庫の増設を予定しています。

近年のコンプライアンス規制の強化などもあって危険物の保管需要は高まっていますが、全国的に保管スペースがひっ迫している状況があります。そう意味では底堅いしっかりした需要があるので、そこをしっかり押さえていこうという狙いです。

また、危険物倉庫の整備と並行して、中ロットの危険物をターゲットにした混載輸送も展開していきたいと考えています。路線トラック会社はいま、危険物の輸送を敬遠する傾向が高まっているため、危険物の混載便を事業化することができれば、倉庫と“足”を絡めた一貫ネットワークが構築できます。まずは、一般化学品を対象として、中ロット混載輸送のトライアルを始めているところです。

危険物倉庫のネットワークを拡充へ(写真は播磨危険物倉庫)

 

自社ドライバーの増員と育成に力を入れていく

 

――輸送について伺いたいのですが、中計でも自社輸送力を強化する方針を掲げています。

浅井 当社グループの保有車両台数は、グループ全体で959台となっています。これに協力会社を中心とした専属傭車が約590台あり、スポット傭車を除くと合わせて1500台程度が日々稼働していることになります。ただ、繁忙期などはスポット傭車に頼らざるを得ない状況であり、コスト面もさることながら、品質面で不安があるというのが目下の大きな課題です。当社はアセット型3PLを売りにしており、輸送を含めたトータルサービスにおける高い品質の確保は何よりも重要だと考えています。

自社輸送力の拡充にも注力

 

――どのような対策が考えられますか?

浅井 ひとつは、グループ内でのドライバーの増員と教育研修の強化です。当社の高卒採用の社員は、採用当初は色々な職場で業務知識を習得させた後、入社4年後にドライバー系、作業系、事務系の大きく3つから選択させる体系になっています。実は現在、川崎市に社員寮の機能も備えた研修施設の建設を計画しています。川崎支店(川崎区桜本)と機工部(川崎区港町)の建屋を統合するのを機に、川崎支店の跡地に研修センターに建設するプランです。完成は約2年後になりますが、そこで教育研修の充実を図り、高いサービス品質を確保したいと考えています。

また、協力会社を中心とした専属傭車についても、輸送力の維持・強化に取り組む必要があります。協力会社の中には後継者不足という課題を抱えるところも少なくないので、今後は戦力維持のためにこうした会社の経営を引き受けて、グループの中に吸収していくといったことも考えていきたいと思います。

人材育成にも力を入れる(写真は鹿島バルクターミナルでの研修風景)

 

人事制度の見直しに着手、採用の多様化も

 

――さて、冒頭で最も重要な課題だとおっしゃっていた労働条件の見直しを含む働き方改革への対応ですが、現在どのような取り組みを進めているでしょうか?

浅井 まず、賞与を含めた賃金面ですが、当社は幸いにも6期連続での増収増益を継続するなど業績が安定していることもあり、この間、年2回支給される賞与では連続で前年アップを続けています。また、計3回のベースアップも実施しており、業績配分という意味では、以前と比較してかなり充実してきたと言えると思います。

また、採用についても、これまでは当社が求める“丸全マン”を純粋培養していきたいとの考えから新卒一括採用による育成が基本でしたが、ダイバーシティなど人材の多様化を図っていくために中途採用や第2新卒の採用もスタートした

ほか、グループ会社の優秀な人材を本体の正社員に登用する取り組みも始めています。

さらに、結婚や育児といった事情で一旦当社を離れた社員がカムバックできる「リターン社員」制度も始めました。今年10月にはこの制度を使って女性社員1人が当社に戻ってきてくれました。

一方、これは世の中全般で言えることかも知れませんが、離職率が高くなっていることに危機感を持っています。

 

――多くの物流企業も同様に離職率の高さで悩んでいます。

浅井 なかなか特効薬がないのが実情ですが、ひとつの可能性として考えられるのは、採用する側の我々と応募する学生の間でミスマッチが起きているのではないかということです。当社が学生のことをよく理解していない一方で、学生の皆さんも丸全昭和運輸という会社の業務内容や物流の仕事をよく理解していないために、お互いに齟齬が生じている面があるのではないでしょうか。最近ではこうしたミスマッチを少しでも減らす一助として、「全友会」という当社を定年退職したOB組織を使った社員紹介制度などの取り組みも始めています。知り合いなどを通じて入社前に当社の業務を知ってもらうことができたら、齟齬を少しでも減らすことができるのではと考えています。

 

――人事制度の見直しも進められていると聞いています。

浅井 当社は先ほど申し上げたような様々な取り組みやトライアルを進めている一方で、人事制度や社員制度などの制度体系については20年近く手を付けていませんでした。そこで、今年に入り「人事制度改訂準備室」を立ち上げ、外部の知見も採り入れながら見直しを鋭意進めている段階です。

まだ、見直しの内容そのものを機関決定したわけではありませんが、方向性としては60歳定年制の延長や再雇用のあり方、特定の技能を有する社員を定年後にも当社に残っていただくシニアフェロー制度などを人事体系の中でどう落とし込むかということになります。また、賃金体系の面では、現業社員への待遇を手厚くしていくことも検討材料のひとつです。

「人材制度の見直しなど働き方改革が喫緊の課題」

浅井俊之(あさい・としゆき)
1968年3月丸全昭和運輸入社。96年中部支店長、01年関西支店長、同年6月取締役、05年6月常務取締役、09年6月代表取締役専務、12年6月代表取締役社長に就任。愛知大学法経学部卒、愛知県出身。