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【ズームアップ】SCを美しく透明な流れに=NTTロジスコ

2022.09.29

美しく透明な流れをつくる――。NTTロジスコ(本社・東京都大田区、中江康二社長)の物流DXの取り組みが加速している。日本最大の通信事業者であるNTT(日本電信電話)グループとしてのDNAをベースに、DXによる自社オペレーション改善に加えて、3PL事業者として顧客企業のサプライチェーン(SC)最適化支援に注力している。「仕掛けが徐々にそろってきた」という同社のDXの現在地について、キーパーソン4人から話を聞いた。

〝NTTのDNA〟を強みに

NTTロジスコは2019年に新たな経営ビジョン『私たちは、お客様の物流を進化させ続け、お客様と社会に美しく透明な流れをつくる会社です』を策定した。企画部門長兼営業推進部門長の和田正史氏は「3PL事業者としての当社の使命を改めてビジョンという形で示した。『美しく透明な流れをつくる』をより具体的に言い換えると、お客様に満足していただける安全かつ最先端の物流の提供を通じて、お客様のSCの最適化に貢献する、ということ」とした上で、「その実現のために欠かせない手段こそがDXだ」と、DX戦略を加速させる理由について語る。「新型コロナやウクライナ問題によるSCの混乱、さらには『2024年問題』といった課題が山積しているが、物流分野にはデジタル化やIT化によって変えていける余地がまだ多く残されている」と分析する。

その中で、NTTロジスコがDXを進める上で強みとなっているのが「NTTグループのDNA」だという。「普段からICTを活用することに慣れており、常に最新技術を取り込むことに意欲的な企業風土、ベンチャー精神がある」と指摘。さらに、長らく電気通信という経済活動や生活に不可欠なインフラを物流面から支え続けてきた使命感・責任感の強さや、SCを維持することの重要性を肌で理解していることも同社のアドバンテージだという。

日々の改善がDXを生み出す

そして、同社がDX戦略を進める中で、もうひとつの欠かせない〝素地〟となっているのが、物流現場に深く根付いた日々の改善活動だ。NTTロジスコでは長年、TPS(トヨタ生産方式)をベースとしたLGPS(ロジスコ生産方式)という5S・改善活動を続けており、そこで定められた全社統一の定量的な評価基準が、DXを導入しやすい現場環境づくりにつながっている。

長年の改善活動によって蓄積された知見やノウハウは、数百ページにも及ぶ「LGPSハンドブック」に集約され体系化。約3000人の従業員に対し、定期的な勉強会などを通じて浸透を図っている。サービス本部サービス推進部長の村上浩二氏は「各現場に日次収支が分かるシステムが導入されており、その日の収支面での〝勝ち負け〟がすぐに把握できるようになっている。データを見れば、どこに費用がかかり過ぎているか、生産性が低い作業はどこかといったことが明らかになるので、そこに対してPDCAサイクルを回すことで改善を進めていく」と説明する。

日次収支は、昨年度にKURANDO社のクラウドシステム「ロジメーター」を全センターに導入したことで実現した。サービス本部サービス開発部長の橋詰盛夫氏は「現場の情報の見える化は以前から行っていたが、集計に数日かかっていた。各種データがすぐに把握できるようになったことで、PDCAのサイクルをより高速で回すことが可能になり、課題解決のスピードが格段にあがっている」と効果を強調する。

標準化が効率化に直結する

LGPSによって全社的に標準化やルールづくりを進めてきたことが、効率化につながっている端的な例がレイバーコントロールだ。各物流現場は、その日の予定作業量に応じて、投入人員をフレキシブルに差配していくことになるが、その際に重要になるのが「誰がどの現場に回っても作業効率が落ちないこと」(村上氏)。そのため、作業現場における表示方法の統一などをLGPSで規定しており、「誰がどの現場に応援に行ってもすぐに作業に馴染めるようにしている」という。

その一環から現在、使用するWMSについても集約を進めている。「かつてはお客様ごとに別々のWMSを使用しているシステム乱立期もあった」というが、現在は新規顧客については自社開発のWMS「DXcore」の導入を推奨しているほか、既存顧客に対しても様々な機会を捉えて置き換えを提案している。「複数のシステムが乱立していると、作業がどうしても属人化されやすく、その結果コストも増えてしまう。システムを統一していくことで、プラットフォーム化を図ることができ、お客様の負担も含めたシステム維持コストも下げることができる」(橋詰氏)という。

さらに、WMSを集約していくことで、請求をはじめとするバックオフィス業務の効率化にもつながる。「作業が標準化されることで、RPAに置き換えやすくなるなど、この領域でもDXや自動化・効率化がさらに進む。Web請求への切り替えも全体の92~93%まで進んでいる」(和田氏)と標準化がもたらす効果を強調する。

輸配送領域においても、ハコベルと協業して配送ルート最適化などのDⅩに取り組んでいる。出荷データを入力すると、チャーター便、路線便、宅配便などの配送手段を自動で選択するTMSを共同開発したもので、これにより配車業務の効率化にとどまらず、輸配送コストの削減にも効果を上げている。「かつての配車業務はまさに属人的な領域で、各センターにいるベテランの配車マンの〝勘と経験〟に頼る世界だった」(村上氏)。しかし、配車マンの高齢化が進む中で、DXによって業務の持続可能性を担保していく取り組みは不可欠。今後もハコベルとの協業を通じてさらなる輸配送の効率化に力を入れていく。

ロボット導入には課題も

物流現場の自動化やロボット導入も、日々の小まめな作業データ分析によって課題を抽出した結果、実現に至った事例が多い。同社は18年以降、レンタル通信機器のリファービッシュ業務において「自動クリーニング作業ロボット」「自動クリーニング・結束作業ロボット」「AI画像認識技術を用いた自動検品システム」の導入を通じて、作業の大幅な省力化や生産性向上を図ってきた。とくにAIによる自動検品では、日本ロジスティクスシステム協会(JILS)主催の21年度ロジスティクス対象で業務革新賞を受賞するなど高い評価を得た。

新技術などを現場に導入していくプロセスについて、橋詰氏は「各現場の改善ネタをデータ分析やヒアリングを通じて吸い上げる一方で、世の中にある新しい技術情報を収集して、使えそうな技術をマッチングしている」と説明する。ただ、導入に際しては、コスト面での課題がつきまとう。「今後も人手不足が深刻化する中で、基本的には自動化・省力化の流れは避けられない。とはいえ、導入には一定のコストがかかるため、GO/NOT GOの見極めが難しい」という。村上氏も「当社は3PL事業者であり、お客様との契約期間が大きなカギを握る。長期契約の場合は投資回収が見込めるが、短期ではなかなか難しい。また、LGPSによって作業員のスキルが向上しているため、人力のほうが生産性が高いケースも少なくない」と明かす。

和田氏はその点について、「だからこそ、お客様の業種ごとにサービスをプラットフォーム化していくことで、自動化にかかるコスト負担を分散化・低廉化していく取り組みが大事になる。そして、そのためには標準化というプロセスが欠かせない」とあらためて強調する。

DXで顧客の物流課題を解決

NTTグループ唯一の物流事業者として、グループの物流効率化に貢献してきた同社だが、現在はグループ以外の外販収入が約6割を占めるなど、3PL事業者としての存在感が高まっている。そのため、DXによる自社のオペレーション効率化にとどまらず、DXを活用した顧客企業の課題解決を支援する取り組みにも注力している。

すでに「CO2排出量可視化ソリューション」や、顧客の物流拠点配置や輸配送最適化などをシミュレーションする「ロジスティクスデザインサポート」などが好評だが、その中でも、今年3月に提供を開始した「ロジスティクスDXソリューション」はとくに反響が大きく、多くの引き合いが寄せられているという。

同ソリューションは、通常の物流業務に加えて、発注補充業務の企画・構築・運営を包括してサポートする。チーフ・サプライチェーン・コンサルタントの美濃部篤氏は、「物流業務だけでなく、その上流工程である発注補充を任せていただくことでSC全体を最適化する。多品種少量でも、大ロット大量でもない『適頻度適量』をコンセプトにしている」と説明する。データ活用や物流現場の気づきをロジック化することで、倉庫や輸配送のキャパシティなど制約条件に見合ったプランニングを策定。「例えば、発注単位はきりがいいという理由で1000個などとしてしまいがちだが、パレット1枚に載るのは960個だったりする。そうなると〝おまけ〟の40個が業務の煩雑さを招いてしまう」と、現場の気づきや知恵をプランにフィードバックすることの重要性を強調する。

今後は、AIなどを活用して需要予測精度を上げていけば、将来の需要のヤマを見越した「前倒し納品」も実現できる。「効率化のカギはいかにオペレーションを平準化できるか。近い先にある発注量の増加を見越して、少しずつ発注を前倒しすれば、一定のキャパシティに中で物流リソースを最大限活用することが可能だ」という。

美濃部氏は「当社にはNTTグループ内外の発注補充業務を長年にわたって担ってきた知見やノウハウに加え、数多くの3PLによる実績や経験がある。つまり物流現場をよく知っていることによって〝現実的かつ実効性がある〟コンサルティングができることが最大の強みだ」と、さらなる〝SC整流化〟への貢献に意欲を見せる。

人材や組織体制の強化も

ICTに精通した人材が多いなど、物流企業の中ではデジタル人材に恵まれている同社だが、さらなる人材面での強化は欠かせない。橋詰氏は「求められるのは、情報収集能力とインテグレーション能力。世の中に出てくる便利な技術やツールを探し出す〝目利き力〟と、それらを組み合わせることができるスキルが大事になる」と語る。「また、自社だけですべてをカバーしようという自前主義には限界がある」として、KURANDO社やハコベルとの協業と同様、今後も他社とのコラボレーションにも力を入れていくという。
組織体制では、7月1日付で100%子会社のロジスコインフォメーションサービスを本体に吸収合併した。「親会社と子会社では、どうしても仕事を受委託する関係になりがちだったが、さらに一体的にDX戦略を進められる体制にした」と狙いを説明する。

今後については、「色々な面で仕掛けがそろってきたので、これからは成功事例を増やしながら、いかに現場に浸透させていくかかが大事になる」と橋詰氏。美しく透明なSCの構築に向けた取り組みはこれからも続いていく。
(2022年9月29日号)


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