物流会社、“選択と集中”で事業再編進む
新型コロナウイルス感染症の拡大やサプライチェーンの混乱、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化、世界的なインフレなど先行き不透明感が高まっている。企業を取り巻く事業環境が大きく変化する中、2021年の上場企業の子会社や事業の売却は過去最高を記録。物流業界でも成長分野への投資を加速するためノンコア部門や不採算部門の切り離し、“選択と集中”の機運が一段と高まってきた。
成長戦略、ポートフォリオの見直しが加速
NIPPON EXPRESSホールディングスは、傘下の日本通運の警備輸送事業を昨年12月に設立したNXキャッシュ・ロジスティクスに2023年1月1日付で継承する。業界トップシェアを誇る警備輸送事業だが、キャッシュレス化などを背景に厳しい環境下にあり、特化した専門会社の設立が不可欠と判断した。
NXHDでは「グローバル市場で存在感を持つロジスティクスカンパニー」を目指す中で、グループ事業の選択と集中、収益力の強化に取り組んでいる。昨年は日通商事のリース事業における提携と分社化、日通自動車学校の事業譲渡、日通旅行が手掛けていた旅行事業の清算といった再編が進む。
住友倉庫はこのほど孫会社の米国海運会社のウエストウッドシッピングラインズ社(Westwood Shipping Lines, Inc.)の発行済株式の全部を、シンガポールの海運会社であるスワイヤーシッピング社(Swire Shipping Pte. Ltd.)の米国における関係会社SSPL US社に譲渡することを決定した。
ウエストウッドグループ3社の直近の業績は3期連続で赤字が続いており、コンテナ運賃の高騰により業績は改善したものの、業績の変動幅が大きく、「着実かつ持続的な成長」を目指す住友倉庫の経営方針にそぐわなくなった。グループの事業ポートフォリオを検討し、コア事業の物流事業と不動産事業に経営資源を集中する方向性に舵を切る。
株式譲渡通じ、協業・ネットワーク相互活用も
株式譲渡による“協業”の動きもみられる。ヤマトホールディングスは1月、単身者向け引越しや大物家財の配送を手掛けるヤマトホームコンビニエンスの株式の51%をアート引越センターに譲渡した。相互送客や両社の経営資源を活用した協業、両社のネットワーク活用を通じ、「より高品質で効率的な輸送サービスを提供できる」と判断した。
陸運分野では、鴻池運輸が3月末に同社の完全子会社であった前川運輸(KBMに社名変更)の株式の81%を大型車中心に幹線輸送を手掛ける奈良県の運送会社ベストラインに譲渡。業務提携契約のもと鴻池運輸、ベストライン、KBMでは共同営業、車両・車庫・整備場・運行管理システムの利用の深化、幹線輸送の連携強化に取り組む。
物流子会社が事業を絞り込む動きもみられる。双日ロジスティクスは昨年来、ISOタンクコンテナおよびフレキシタンクの代理店業務をそれぞれ築港、東海運に継承し、名古屋スチールセンターを神鋼物流に譲渡。ADEKA物流は昨年12月に関西物流センターの土地建物を同社の協力会社である上組に譲渡した。親会社の選択と集中の方針や「アセットライト」志向の影響とみられる。
産業全体を見渡すと、製造業における「祖業」も含めた事業売却や国内外工場の削減、海外事業の見直しが進む。事業ポートフォリオ変革への投資原資を確保するため、有給資産の売却も活発になってきた。大手小売業でも不採算事業の売却を検討する動きがみられる。一方で、事業再編や非中核事業の切り離しの“受け皿”として、外資系ファンドの日本での投資が存在感を増していることにも注目が集まる。
(2022年5月17日号)