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「標準運賃」で構造的課題浮き彫りに…

2020.09.15

トラックドライバーの処遇是正の原資となる運賃の“底上げ”を目的とし、4月24日に告示された「標準的な運賃」。下請けの実運送の運賃水準を引き上げる期待があるが、コロナ禍で元請けが真荷主に転嫁できなければ、運賃交渉をめぐって元請けと下請けの間に運賃の分配を巡る“分断”が生じる可能性もある。一枚岩でないトラック業界の構造的課題が浮かび上がってくる。

「目標となる運賃」で健全な事業運営を後押し

標準的な運賃は2018年12月に成立した、改正貨物自動車運送事業法の主要施策のひとつ。24年4月から、トラック運転手に罰則付きの時間外規制が適用されることから、それまでにドライバーの処遇を全産業並みに是正するため、適正な利益を確保する目安の運賃として、23年度末まで時限的に運用される。

中小のトラック運送事業者は運賃交渉力が弱いため、安全やコンプライアンスなどの必要コストに見合った対価を収受できていないという課題があった。これを早期に打開するため、国が「目標となる運賃」を示し、人材確保も含めて健全な事業運営を後押することが期待されている。

近年、荷主取引比率の大きい大手運送事業者は運賃値上げ交渉に成功し、収益を拡大する一方、元請けからの受注比率が相対的に大きい中小事業者は元請けとの運賃交渉に難航し、人件費などのコスト上昇が経営を圧迫していた。標準的な運賃は「下請けの運賃」を「目標となる運賃」レベルに設定することで、業界全体の運賃の底上げを狙ったものだ。

値下げと値上げ――元請けは2つの圧力で板挟み?

近年、需給の引き締まりを背景に荷主の理解も進み、運賃は値上げ基調が続いていたが、コロナ禍で状況は一転。荷主によってはアフターコロナも見据えたリストラ、事業再編を加速させており、実勢運賃に比べて割高感のある、標準的な運賃に基づく値上げは受け入れにくい環境になってきている。

トラック運送業界では主に大手事業者から中小事業者への貨物の再委託が常態化している。国土交通省の調査によると、売上高が一番高い輸送品目について真荷主からの委託は約5割、一般貨物自動車運送事業者からの委託が約3割。取引上の立場は元請けが約6割、1次下請けが約3割となっている。

中小事業者にとって“荷主”とは真荷主ではなく、元請けの大手事業者であることも多く、その場合、元請け事業者が運賃の交渉先となる。国がオーソライズし、業界として推進する標準的な運賃をめぐって、元請け事業者が真荷主からの「値下げ圧力」と下請けからの「値上げ圧力」の板挟みになることも考えられる。

運賃格差、対荷主でなく業界内部の問題とも

トラック運送の多層下請け構造はやや改善されてきてはいるものの、各段階で事業者がマージンを取ることによって、真荷主と元請けの契約単価と、下層で受注する事業者の契約単価には格差が生じている。下層にいけばいくほど運賃が安くなるのは、対荷主というよりも業界内部の利益配分の問題という側面もある。

トラック運送業界は事業者数が約6万2000者と多く、中小企業基本法に基づく従業員300人以下の中小企業が99%を占める。近年の大手の値上げ効果の中小への波及は限定的で、
ドライバー確保で大手と中小が競合し、コスト上昇に耐えられない中小の経営が疲弊するなど格差が広がりつつあった。
標準的な運賃は低迷する下請け運賃のボトムアップを目指すものだが、それを阻むのが過当競争だ。業界内部で取引されるスポット輸送はこれも下請けの一種とされるが、コロナ禍で運賃の下落が著しい。業界の再編など構造改革が進まなかったことが、標準的な運賃の前に壁として立ちはだかる。
(2020年9月15日号)


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