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【ズームアップ】SCM強化へ「物流部」新設=梅の花

2020.02.13

豆腐・湯葉料理などの外食・テイクアウト事業を展開する梅の花(本社・福岡県久留米市、本多裕二社長)は、サプライチェーン・マネジメントの強化に着手する。昨年10月には「物流部」を発足して物流管理体制を整備。京都と佐野のセントラルキッチン(CK)近接地に倉庫を新設したほか、台風発生時には同社で初めて配送の計画運休にも踏み切った。物流部の吉田訓部長は「グループ全体最適の中でお客様に魅力的な商品を作り届けられるよう、顧客満足と合理性のバランスが取れた運用を実現し、攻めの物流へと転向したい」と意欲を示す。

外食店舗80店、惣菜店舗180店以上を展開

梅の花は、和食レストラン「湯葉と豆腐の店 梅の花」や「かに料理専門店 かにしげ」に代表される外食店舗を全国で約80店構えるとともに、「梅の花テイクアウト」や持ち帰り寿司の「古市庵」などの惣菜店舗をデパ地下をはじめ約180店展開する。商品は自社工場での製造が中心で、生産拠点はメイン工場の「久留米CK」(福岡県久留米市)と、古市庵商品を担当する「佐野CK」(栃木県佐野市)、2018年10月に新設した「京都CK」(京都府井出町)の3工場体制となっている。

物流拠点は久留米CKに併設する自営の「久留米DC」のほか、関西に「東大阪DC」、関東に「浦安DC」と「平和島TC」を構える。CKで生産された商品や外部からの調達品などはDCやTCでクロスドックし、トラックで店舗に納品される。CKでは基本的に周辺店舗の商品を生産するが、製造設備が限られる一部の商品は航空便で全国へスピード輸送される。

台風19号では初めて配送の計画運休を決断

1990年の創業から順調に規模を拡大する一方で、事業会社のM&Aを経て成長してきた経緯もあり、「グループ内にはサプライチェーンの非効率性さも生じ始めていた」と吉田氏。そこで、2018年9月に購買部内で「物流プロジェクト」を発足した。調達から生産、販売に至るサプライチェーンの実態とコストを可視化した上で、「人手不足や働き方改革への対応など物流業界が抱える課題に対し、荷主として考えを新たにしなくてはならない時期に来ている」と判断。物流視点による全体最適に向けて、物流部の設置を決めた。

新設した物流部が注目するサプライチェーン最適化策のひとつが、生産体制の見直しだ。とくに久留米CKなどから遠方への輸送に利用される航空便は物流コストを上昇させるとともに、生産拠点が限定されることはBCPの観点からもリスクが高い。既に一部商品の生産は京都CKや佐野CKに分散しつつあるが、生産設備の増設は投資も伴うため、中長期的な検討課題のひとつとして物流から積極的に提案していく。
合わせて、基礎調味料などの調達にも着目。調味料は、M&Aした事業会社が統合前のまま利用していることもあって、“似て非なる”商品が社内で複数調達されており、購入時のボリュームディスカウントや在庫管理の高度化によるコスト削減を見込んで、調達の統合を視野に入れる。同様に、同じ商品であっても事業会社ごとに異なる商品管理コードの統一も図る。

最重要課題に据えるのが、災害などのBCP対応だ。従来は災害時でも店舗納品を最優先としていたが、物流会社への負荷を考慮し、昨年の台風19号では初めて48時間前に配送の休止を決断した。「これまでにない英断」(吉田氏)ではあったが、物流会社から歓迎され、かかるコストも例年の台風発生時より数百万円削減できた。今後は発注停止をさらに半日前倒しし、工場からDCおよびTCへの輸送も停止するとともに、こうした判断の基となる、より詳細な災害時のガイドラインも作成する。

その上で、「ベストなのは災害時に運ばなくても店舗に商品が並ぶこと」として在庫の最適化に向けた分析や計画精度の向上も進める。各店舗の発注計画についても、天候などの外的要因を物流部から助言。「商品が届かない可能性がある」リスクを加味した発注の仕組みを構築し、店舗への効率的かつ最適な納品体制と、食品ロスの削減につなげる。昨年末の繁忙期も、在庫管理をベースに綿密な生産・販売計画を立案したことでイレギュラーの発生を大幅に抑制できたという。

さらに、昨年11月から12月にかけては、自社倉庫を持たない京都CK(写真)と佐野CKの近接地にバッファ倉庫を新設。工場では年末や節分繁忙期前に一部商品を繰り上げて前倒しで生産し、店舗納品分とともにDCへ運ばれていたが、こうした在庫の積み増しに対応できる倉庫を別途確保したことで、物流面での煩雑さやDC側の負担を軽減した。同所では生産原料の余剰在庫も保管することで、原料の欠品防止や経済ロットによる安定的な調達にも貢献。吉田氏は「賃料としての費用は増すが、グループ全体のメリットは大きく、調達コストを分析するきっかけにもなった」と手応えを得る。

物流部の社員が役員を務める会社を目指す

物流部の設置前は、購買部内に「物流課」が置かれていたが、店舗や事業会社ごとの営業戦略に対し、物流面からグループ全体の収益を分析、指摘できる組織はなかった。今回、購買部、製造部および営業部と並列の組織として物流部を独立させたことで、今後は出店計画や営業戦略にも物流の視点から参画し、店舗や工場などに“物流”への認識を呼びかける。

実現に向けて、今年から他部署の社員に対する物流研修も開始し、いずれはジョブローテーションなども行いたい考え。将来的には物流部内に、各事業会社の食材共有化や調達の統合を担当するようなマーチャンダイジング部門の立上げも検討し、まずは物流部で物流の専門的な知識とノウハウの蓄積を図る。並行して、昨年5月にグループ入りした、外食チェーン「さくら水産」運営のテラケンとも物流面における統合シナジーの発揮へ準備を進める。

吉田氏自身はこれまで、グループの外食事業やテイクアウト事業の中核会社社長を歴任し、物流の見直しをミッションに、物流部の部長に就任した。物流部の係長に就いた三井田浩二氏も配属前は営業を担当しており「店舗の気持ちがわかった上で、物流の慣習にとらわれずに見直しができる」と話す。吉田氏は「物流部は将来の幹部候補を育成するにはもってこいの部署。物流の重要性を理解している会社は物流担当部署の社員が役員に就いており、当社でもその姿を目指したい」と話す。
(2020年2月13日号)


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