メニュー

「改善基準告示」改正へ議論スタート

2019.12.25

厚生労働省は19日、自動車運転者の労働時間の改善のための基準(改善基準告示)の見直しを検討する専門委員会(委員長=藤村博之・法政大学教授)の第1回会合を開催した。トラック・バス・ハイタク3業界それぞれの労働時間など実態調査を行い、それを踏まえた上で、2021年12月に改善基準告示を改正・公布する。その後、24年3月まで十分な周知と施行準備期間を設け、ドライバーの時間外上限規制適用猶予期間終了と同時の24年4月に施行予定。初会合での意見交換では賃金との関連や、実態に即した議論の必要性が指摘されたほか、告示を遵守するための着荷主の理解が不可欠との認識が示された。

賃金との関連、実態に即した議論を

同委員会にはトラック・バス・ハイタクの自動車運送業界から使用者代表、労働組合、学識経験者、行政が参加。トラックの使用者代表では全日本トラック協会の馬渡雅敏副会長、日本通運の浜島和利執行役員が出席。労組からは全国交通運輸労働組合総連合(交通労連)トラック部会の貫正和事務局長、全日本運輸産業労働組合連合会(運輸労連)の世永正伸中央副執行委員長が参加した。行政からは事務局を務める厚労省のほか、国土交通省から自動車局安全政策課の石田勝利課長がオブザーバーとして加わった。

全日本トラック協会の馬渡氏は「働き方改革を踏まえ、改善基準告示を遵守することが重要だが、その一方で、ドライバーの労働時間抑制の結果、得られる賃金が減少するのはあるべきことではない。トラック業界では歩合給で働くドライバーがおり、時間当たりの賃金が変わらなければ、労働時間短縮は収入減に直結する」と述べ、「今後の議論は、賃金との関連性についてもかみ合わせた形で行ってほしい」と強く要請した。

さらに、「現在の改善基準告示を守れていない事業者が多いことは事実で、経営者は守るべく努力をしなければならない。残業時間の上限規制960時間が決まった以上、その枠内で改善基準告示と整合を保ちながら、いかにしてドライバーに働いてもらうかが重要だ。経営者としては、ドライバーの賃金を上げることと、労働時間、休息時間や休日を法令に従って与えることのバランスをとらなければならない。それが可能となるような新たな改善基準告示づくりが必要だ」と強調した。

日本通運で総務・労働関連業務を担当する浜島氏は「改善基準告示を改正する際に重要なのは、ドライバーが安全な運行を行いながら基準を守っていける内容であることだ。行き過ぎた内容改正により、結局は守られなくなるということがあってはならない。実態に即した議論としたい」と述べた。

軽貨物も改善基準告示の対象にすべき

労働組合からは、交通労連の貫氏と運輸労連の世永氏が発言した。貫氏は「第一に、ドライバーの受け取る賃金を維持しながら、労働時間を短くすることが重要だ。ドライバーの運行形態は多様であり、例えば日勤での業務もあれば、長距離運行もある。労働形態が大きく異なっていることを考えなければならず、それを同一の改善基準告示で扱うべきかについては議論が必要だ」と指摘。また、「現在、軽貨物運送には改善基準告示の適用がなされていないが、EC通販の拡大を背景に取引が増加している実態を踏まえ、今後は軽貨物に対しても改善基準告示の適用を行うべき」と主張した。

運輸労連の世永氏は「24年4月から労働時間上限規制960時間が施行されるが、働き方改革を推進するため、新たな改善基準告示の施行はできるだけ早期であるべき」と述べ、建設的な議論を速やかに行う意義を強調した。

「着荷主が蚊帳の外」では改善基準告示を守れない

意見交換では全ト協の馬渡氏が、着荷主の問題を提起。「トラック業界の時短で最も重要な課題は荷待ち時間のことだ。現状では荷待ち時間のある運行では平均拘束時間が13時間を超えている。しかも、1運行あたりで荷待ち時間が2時間を超える運行が全体の3割を占める。こうした実態がドライバーの時短を妨げている大きな要因だ」と説明。その上で「『運送を頼んだのは発荷主であって当社ではない』と言う着荷主もいる。運送会社に荷待ちをさせていることへの意識が乏しい荷主がいることは事実だ」と指摘。重ねて「われわれの仕事は荷物を届けることであり、拘束時間を超えるから荷物を届けずに帰庫しなさいとは絶対に言えない」と苦衷を訴えた。

その上で「今回の委員会には荷主が参加していない。長時間労働の要因のひとつには着荷主側での待機時間がある以上、われわれが話し合っても、着荷主が『蚊帳の外』にあるならば有効な対策となるだろうか」と問いかけ、「改正の方向性として、発荷主・着荷主の輸送依頼の実態を反映させた上で、われわれ事業者が遵守でき、しかもドライバー、経営者、荷主それぞれの立場から理解しやすい内容とすることが重要だ」と今後の議論での課題を提起した。

同委員会では、今後アンケートによる実態調査を行うため、3業界に分けて「労働時間等に係る実態調査検討会」を設置。検討会のメンバーは同委員会の委員が中心となり、厚労省と国交省がオブザーバーとして参加する。同検討会が実施した調査結果は、来年夏ごろに取りまとめ、同委員会に報告。同委員会はその結果を踏まえ、改正作業を進める。
(2019年12月24日号)


関連記事一覧