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JR貨物上場の議論は時期尚早=国交省・水嶋鉄道局長

2019.10.03

国土交通省鉄道局の水嶋智局長(写真)は9月27日、就任後初の専門紙記者会見を開き、「JR貨物の株式上場について、将来検討する際には、国鉄改革時につくられた様々な制度的下支えがあって事業運営が成り立っている同社のあり方をどう評価するかの課題が出てくる」として、「現段階において上場についての議論を行うのは時期尚早だ」と述べた。

また、青函トンネルでの新幹線の高速走行の実現と貨物鉄道との共用走行のあり方について「幅広い観点から検討を行う必要がある」とした上で、「JR北海道の債務等処理法を審議する2021年開催の通常国会までには、行政としてある程度の考え方をまとめる」とした。会見の要旨は次の通り。

JR貨物は安定的利益確保に努力を

JR貨物は、近年のトラックドライバー不足などによる鉄道貨物輸送への転換の動きを取り込むなど経営努力を重ね、16・17年度は鉄道事業において黒字化を達成した。一方で18年度については相次ぐ自然災害の影響により減収減益となってしまった。

そもそも同社が黒字化を達成できたのは、国鉄改革時につくられた様々な制度による下支えによる部分が大きい。その経営基盤自体は依然として脆弱なものがあると考えている。経営基盤を確固としたものにするためには、東京レールゲートの開発をはじめとする様々な収益事業を展開し、鉄道を基軸とした総合物流企業グループへの進化を遂げる必要がある。鉄道貨物事業だけでなく、他の事業においても安定的な利益を確保できるように努力を積み重ねていただきたい。

同社の将来における株式上場について考えていくためにも、企業体質の改善は重要だ。上場を検討する際は、現在の同社の事業運営が各種の制度的下支えがあって成り立っていることを、どう評価するかが大きな課題として出てくる。そのため、安定的収益の確保に向けて経営基盤の確立に努力をしている途上の現時点では、株式上場を議論するのは時期尚早だ。

青函トンネルの貨物・新幹線の共用走行は検討段階

トンネル部分を含む新幹線と貨物鉄道の青函共用走行区間について、新幹線と貨物列車の安全を確保したすれ違い走行を実現するため、従来の新幹線速度は時速140㎞に制限していたが、高速化を進める観点から、今年3月のダイヤからは160㎞にすでに速度アップしている。また、今後の新幹線の高速運行に向けて、9月から貨物列車と新幹線の走行時間を分ける「時間帯区分方式」による200~260㎞での高速走行試験を実施している。その試験結果を踏まえ、遅くとも20年度には、GW、盆休期、年末年始などの旅客の多い「多客期」の一部時間帯において、時間帯区分方式での新幹線高速走行を開始する考えだ。

貨物鉄道との共用走行については、JR北海道に対し、経営安定化に向けて昨年7月に発出した経営改善命令において、「国は新幹線の高速化について、物流の確保も配慮した上で検討を進める」と記している。現在、新幹線と貨物鉄道のバランスをどう取っていくのかについて関係者間で幅広い観点から検討している。様々なアイデアが出ているが、北海道新幹線の札幌までの延伸に向けて、関係者間で確固たるイメージを共有しているわけではない。

時間軸で言えば、21年の通常国会でJR北海道の債務などの処理法を審議していただくことになるが、それまでには国交省として新幹線と貨物鉄道との青函共用走行について考え方を取りまとめる必要があると認識している。そこに向けて、安全の確保について万全を期した上で、青函共用走行区間の新幹線高速化を引き続き検討していく。

貨客混載事業は物効法で支援

現在、主に地方鉄道において旅客鉄道事業者による貨客混載の取り組みが行われている。輸送力の余剰活用や地方での非効率な配送体制の改善を図る取り組みとしてCO2排出削減に効果があるものと評価している。現在では8事業者・8路線で貨客混載事業が行われているが、国交省としても物流総合効率化法の枠組みなどを活用し、こうした事業を支援していく。
(2019年10月3日号)


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