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巨大化する台風に物流現場の対策は?

2019.09.26

千葉県内での大規模停電など甚大な被害をもたらした台風15号。千葉では観測史上最高となる最大瞬間風速57・5mを記録し、京浜地区の物流拠点ではトラックが横転するなど深刻な“風害”が発生した。7月から台風などの異常気象時に荷主が運行を強要する行為も荷主勧告の対象に追加されて以降、初めての大型自然災害だったことから、荷主、物流事業者の対応が注目されたが、想定外の強風対策に課題を残した。ただ、台風のシーズンの終わりとともに対策が先延ばしになる傾向があり、年々巨大化する台風対策に対し「喉元過ぎれば…」への危機感も広がりつつある。

事業者への「気を付けてね」はプレッシャーに

「配達先の従業員が出勤できないことが予測されたため、早い段階から『ドライバーを待機させる』と主要荷主に連絡した」と話すのは、首都圏のトラック運送事業を営む経営者。一方で、「従業員は出勤できなかったが、朝からトラックが倉庫に着いていた」(京浜地区の倉庫)、「(台風が直撃した)当日に渋滞に巻き込まれ、夕方、へとへとになってドライバーが戻ってきた」(同)といった報告もあり、オーダーが完全にストップしたわけではないようだ。

東京のトラック運送事業者の幹部は、「台風に関し『大丈夫か』と荷主は気にしてくれる。しかし、『気をつけてね』と言われてしまうと…」と言葉を濁し、最終的に荷主の「発注」が事業者に強いプレッシャーを与えていることがうかがえる。他方、関東に荷物を発送する荷主からは、荷主勧告制度の適用を懸念しつつも、「事業者の運行可否の判断について、荷主の関与を判断する基準は難しい」との声もみられた。

港湾施設についても、台風対策の強化の必要性が指摘されている。「従来、沖縄から徐々に勢力を弱めて日本列島を通過していたのが、太平洋側を直撃するケースが増えてきた。これまでの“想定内”の対策ではとても対応しきれない」と港湾関係者。台風15号では強風により空コンテナの荷崩れを防ぐための固縛ベルトが切れてしまい、「ワイヤーで固縛するなど最大瞬間風速60m以上を想定した、一歩踏み込んだ対策が必要」とみる。

昨年9月の台風21号では神戸六甲アイランドでマグネシウムを積載したISOタンクコンテナが浸水して大火事が発生し、消防庁では危険物施設の風水害対策を強化している。屋外にある容器やコンテナの高所への移動やローリー、ISOタンクコンテナ車両など移動タンク貯蔵所を高台等へ移すことを対策として示しているが、現実的には、移動先のスペースの確保は困難で、移動できても強風で横転するリスクもある。

安全確保を最優先する“ガイドライン”を

事前に被害の規模などがある程度想定できる風水害などの災害は「進行型災害」と呼ばれる。ニュートン・コンサルティングによると、BCP策定に際しては、地震を想定する企業がほとんどで、風水害への対策は進んでいないのが現状だという。時間降水量50㎜以上の「非常に激しい雨」はここ30年で約1・3倍に増加しており、BCPの観点からも風水害対策の必要性が増している。

トラック事業者によれば、「台風が起きた直後の荷主とのミーティングでは、対策をどうするかという話題がよく出る」ものの継続性がないという。台風前後には交通網の混乱による道路渋滞も起きがちで、事故が起きなくても運行管理上のリスクもある。荷主との力関係により「今日は行けません」と事業者からは言いにくく、「運行中止を判断するためのガイドラインを設けてほしい」との要望もある。

「台風は予想できるため、事前にコンテナの段を低くしたり固縛するなど最善策をとっているが、年々“想定外”が増えている。実入りコンテナが海に流出した場合の補償の問題、台風対策に有効な機器の開発など検討課題は多いが、シーズンが過ぎると忘れてしまいがち。台風は年々巨大化しており、今後民間だけでなく自治体、港湾管理者も含めた対応が必要になってくる。また、物流に従事する人の生命と安全確保を最優先する“ガイドライン”が必要」と港湾関係者も話す。
(2019年9月26日号)


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