クボタ、生産・物流の複線化で安定供給体制確立へ
クボタ(本社・大阪市浪速区、北尾裕一社長)は、地政学リスクなどサプライチェーンのリスクを踏まえ、生産、物流の複線化を進める。売上高の8割を占める海外市場への供給で現地生産を加速し、日本からの供給に依存しない体制をつくる。物流では、輸送ルートの複線化や海外調達部品在庫の積み増しにより安定供給を確立する。国内では、「2024年問題」に対応するため、内航コンテナ船を活用したモーダルシフトや異業種との共同物流にも挑戦する。
海外生産比率5割へ、物流BCP対策も強化
同社の機械事業本部の海外売上比率は8割を超え、9割に迫っている。一方で、海外生産比率はまだ3割程度で、日本からの供給への依存度が高い。昨今の地政学リスクや海上輸送の混乱および運賃高騰を踏まえ、生産、物流リスクを低減するための現地生産・地産地消を進め、海外生産比率を5割程度に引き上げる中期目標を掲げる。
こうした方針に沿い、堺製造所(大阪府堺市)で生産する北米市場向けの小型建機「コンパクトトラックローダー(CTL)」の生産の一部を、米国子会社がカンザス州に新設した工場へと移管。農機の最大市場であるインドでは、現地農機メーカーのエスコーツを買収し、マルチパーパストラクターを現地生産している。
物流リスクを低減するため、BCP対策も強化している。コロナ禍では世界的なコンテナ不足とスペースのひっ迫により海上運賃が高騰し、「運べない」リスクが顕在化した。このため、輸送ルートの複線化のほか、海外調達部品の在庫量を増やしたり、複数の調達ルートを確保するなどレジリエンスの向上に取り組んでいる。
北米東岸北部に新物流拠点、リードタイム短縮
輸送ルートの複線化の一例が、北米向けの輸出におけるRORO船の活用だ。従来から大型建機など一部の製品の出荷で使っていたが、コンテナ船の運賃高騰とスペース不足を受け、21年末から、日本から北米向けのCTLの出荷にRORO船を活用。コンテナ船の運賃水準が落ち着いた現在も、代替輸送手段として一定程度維持している。
関戸崇物流統括部長は、「RORO輸送はコンテナ輸送よりも価格が安い上、リードタイムは1ヵ月強も短い。コスト面だけでなく、米国内の品不足の緩和に大きく貢献した。今年はコンテナの運賃下落幅が大きく、RORO輸送の方がコスト高となるが、輸送手段の多様化として一定量は維持していきたい」と話す。
北米向けの供給では、コンテナ船、RORO船の受け入れ地である北米東岸の物流拠点も見直した。西岸の港湾混雑や労使交渉による混乱を避けるため、各荷主の東岸シフトが進んだことから、従来はジョージア州に物流拠点を設けていたが、消費地により近い東岸北部に新たな物流拠点を設置し、リードタイムを短縮した。
日本および海外の工場出荷から販社、納品先までのステータスの可視化にも取り組む。自社開発のシステムからパッケージソフトへの切り替えを検討。物流環境が厳しい中での製品供給において、「いつ、何が届くか」を正確に把握できるようにすることで、将来在庫の予測を可能とし、在庫配置の適正化や納期回答の精度を向上させる。
内航船活用、異業種との共同物流も試行
国内では、「2024年問題」対応として、①運べなくなるリスク②物流コスト上昇リスク③物流コンプライアンスのリスク――についてそれぞれ対応を推進中。長距離輸送の中継やリードタイムの延長を検討するほか、飲料、素材メーカーなど異業種の荷主の帰り便を活用した共同物流についてトライアルを行っている。
モーダルシフトも進める。京浜港の混雑を回避するため、筑波工場(茨城県つくばみらい市)からの輸出で、常陸那珂港~京浜港の輸送に内航コンテナ船を活用。京浜港まで陸送するのに比べドレージ距離を大幅に短縮でき、車両の回転率アップにも貢献できる。堺製造所では堺泉北港~阪神港での内航コンテナ船の活用も検討する。
筑波工場を主体にコンテナラウンドユースも引き続き推進する。輸入荷主のコンテナをクボタが再利用し、空コンテナの回送削減とドライバー不足の緩和に寄与する。また、枚方製造所(大阪府枚方市)では倉庫敷地内にコンテナを数十本程度プールし、バンニングのタイミングに合わせてコンテナを届けるシャトル輸送方式を採用し、荷待ちの解消を図っている。
北米西岸加州で倉庫新設、年内の竣工を計画
各地域の物流施策では、欧州の物流拠点をフランスとオランダの南北2拠点に集約。インドでは、クボタとエスコーツの物流拠点の統合、共同配送の取り組みを進め、アフリカ、アジアへの輸出拠点化を目指す。北米では西岸のカリフォルニア州で倉庫の新設を進めており、天候の影響で工事が遅れているが、年内の竣工を計画する。
日本では21年9月、北海道苫小牧市内に農業機械の新たな物流拠点として「クボタロジスティクスターミナル苫小牧」を開設。外部倉庫や販社に分散する分散する農機の在庫を一元化し、配送経路を簡素化した。来年4月には筑波工場隣接地に「東日本部品センター」を移転し、外部倉庫の集約により倉庫間の横持ち輸送を減らす。
ESGの取り組みとして、従来は把握していなかった製品出荷に伴うCO2の排出量算出も目途が立った。また、物流における環境負荷低減の取り組みとして、子会社のクボタロジスティクスでは、海上モーダルシフトのほか、強化段ボールパレットの導入をはじめとした脱プラスチック荷材の利用を推進している。
(2023年6月1日号)