〝目標となる運賃〟として活用、賃金アップを=国交省・一見自動車局長
国土交通省の一見勝之自動車局長は3月31日、専門紙記者会見を開き、標準的な運賃の告示について、「現在、運輸審議会では4回の審議が重ねられ、4月2日には公聴会が開かれる。審議会の答申が出された後は、可能な限り速やかに告示を行う考えだ」と述べた。
また、新型コロナウイルスの感染拡大防止に向け、国交省としても全力を挙げると表明。その上で、トラック運送業界への影響について「荷主からの運送依頼のキャンセル状況を含め、業界に対する影響度合いについて聞き取り調査を行った。今後はその結果を踏まえ、適切な対応を進めていく」とした。
ドライバーも他産業並みの賃金実現目指す
一見自動車局長(写真)の会見要旨は次の通り。
標準的な運賃の告示制度導入は、改正貨物自動車運送事業法の最重点項目だ。トラックドライバーの賃金引き上げを行うためには、その原資となる運賃アップの実現が不可欠であり、トラック事業者が運賃の上昇を図るため荷主と交渉を行う際に、標準的な運賃がそれを後押しする役割を果たすことを期待している。
その意味でも標準的運賃の告示制度を可能な限り早く実現すべきだと考えている。諮問機関である運輸審議会には2月26日に諮問し、現在までに4回の審議を重ねたところだ。4月2日には公聴会が開かれ、全日本トラック協会の馬渡雅敏副会長が公述人として意見陳述を行う。公聴会を含めた数回の審議を経た後、早ければゴールデンウイークの前には審議会が赤羽国交大臣に答申すると見込んでいる。当局としては答申が出された後は速やかに告示を行う。
これまで審議会委員からは標準的な運賃の設定の考え方にあるトラック業界の人件費の現況や車両などの償却年数について質問があり、当局貨物課を中心に回答を行ったところだ。
(一部のトラック事業者から「標準的な運賃のレベルが実勢運賃と比べ高すぎる」「標準的な運賃というよりも、実状から遠い〝理想的な運賃〟ではないか」との声も挙がっていることに対しては)告示案として提出した標準的な運賃について現実的ではないという意味での〝理想的な運賃〟と考えるのではなく、〝目標となる運賃〟と考えるべきだ。運賃を設定する際に考慮した人件費についても、現状の賃金水準をよしとするのではなく、現在のトラック業界の平均的な賃金よりも高い全産業平均の賃金を参照基準としている。これは、全産業平均より2割ほど低いドライバー賃金の引き上げが喫緊の課題だと認識しているからだ。また、車両の償却年数の考え方についても、現在の業界では償却年数は約10年ほどが大勢を占めているが(輸送の安全確保や環境性能に優れた)新型車両への代替を促進する観点からも償却年数は5年とする考えに基づいている。
事業者には標準的な運賃を参考としながら、荷主との運賃交渉をしっかりと行い、ぜひとも取引環境の改善を実現し、最大の課題のひとつである人手不足を跳ね返すための原資を確保していただきたい。標準的な運賃は、そのための〝目標となる運賃〟として活用してほしい。
輸送品目別の改善、次は生鮮品と飲料・酒類が対象
現在、農林水産省・経済産業省とも連携し、輸送品目ごとにドライバーの長時間労働削減と生産性向上について紙・パルプ、加工食品、建設資材のそれぞれの分野において荷主も傘下していただき改善に向けた懇談会を進めている。本来ならば検討結果は19年度中に改善方策として取りまとめ、ガイドラインを策定する考えだった。ここに来ての新型コロナウイルスへの対応により若干の遅れを見せているが、作業はかなり進んでおり、近々ガイドラインを公表する予定だ。
他の輸送品目でも同様に改善方策を検討することとしている。20年度には「生鮮食品」と「飲料・酒」分野での懇談会を立ち上げ、ドライバーの労働環境改善に取り組んでいく。これらの品目も長時間の待機時間発生をはじめ、多くの課題があると認識している。荷主と事業者と力を合わせ、しっかりと改善に取り組んでいく。生産性向上の取り組みとドライバー不足への対応のいずれも、取引環境の改善が不可欠の基盤だ。
(2020年4月2日号)