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改善基準告示改善に向け、着荷主の実態把握=トラック中央協議会

2019.10.15

国土交通省と厚生労働省は9日、トラック輸送における取引環境・労働時間改善中央協議会(野尻俊明座長=流通経済大学学長)の第11回会合とトラック運送業の生産性向上協議会(同)の第10回会合を同時開催した。会議では行政による時短や生産性向上に向けた取り組みが報告された。議論では、時短実現には、とくに着荷主の理解と協力が必要だとする意見があった。それを受け、厚労省は、働き方改革関連法に伴う改善基準告示の改正を進めるため、着荷主の実態把握を行う考えを示した。

同協議会には、荷主、トラック事業者、労働組合、消費者団体などから委員が顔をそろえ、行政からは国交省、厚労省に加え、農林水産省、経済産業省、環境省などが参加。全日本トラック協会からは辻卓史副会長、馬渡雅敏副会長、浅井隆副会長らが出席。
開会冒頭、国交省の一見勝之自動車局長が挨拶に立ち、「トラックドライバーの長時間労働改善と取引環境改善は喫緊の課題であり、昨年12月に公布された改正貨物自動車運送事業法(改正事業法)の趣旨に基づき、様々な改善の取り組みを進めている。また、運送事業の生産性向上を図る取り組みのさらなる推進と、来年の東京オリンピック・パラリンピック開催時の円滑な物流実現も、直面する大きな課題となっている。関係者が一堂に会する協議会において、こうした課題解決に向けて御議論いただきたい」と挨拶した。

「ホワイト物流」運動や食品流通合理化を展開

議題では、国交省、厚労省、農水省から最近のトラック運送事業に関する取り組みの説明があった。
国交省は、9月末現在で荷主企業550社が賛同した「ホワイト物流」推進運動の概要や、改正事業法に基づく取り組みについて説明した。また、荷主、事業者と農水省、中小企業庁、国交省、国税庁、公正取引委員会など行政が構成員となった飲料配送研究会が取りまとめた飲料・酒類の配送業務での非効率的な慣習の改善に向けた提言を紹介。今後の周知を図るとした。

厚労省は、全国で実施された改善パイロット事業の事例をまとめたガイドラインや改善の参考となるハンドブックを掲載したドライバー時短に向けたポータルサイトを9月6日に開設したと報告。併せて荷主と事業者のための長時間労働短縮に向けたセミナーを今月から全国50ヵ所で開催し、改善への取り組み促進を図るとした。

農水省は、食品の輸送は手荷役作業が多く、小ロット多頻度輸送が多いなどの事情から、流通の合理化を図るとともに、食品ロス削減にも取り組むため、発着荷主団体、運送事業者団体、農水省、経産省、国交省などがメンバーとなった「食品流通合理化検討会」を設置する考えを示した。産地と消費地ではパレット化による手荷役の軽減やトラック予約受付システムによる待機時間の削減を図り、幹線輸送では、中継輸送による長時間輸送の軽減やモーダルシフトによる輸送手段の分散などの取り組みを協議する。

事務局からオリンピック・パラリンピック開催時の混雑緩和に向け、荷主・物流事業者へ協力要請が行われた。

告示改正へ、着荷主の対応など実態把握=厚労省

意見交換では、全ト協の辻副会長が「働き方改革関連法により5年後にはドライバーの罰則付き残業規制が導入される。それに伴い改善基準告示の見直しが必要だ」と指摘。改正への進捗状況を質問した。厚労省の担当者は「告示の改正に向けた具体的作業をどう進めるか、現在はまだ検討段階にあるものの、できるだけ早くに改正を行いたい」と回答した。

馬渡副会長は「改正事業法の荷主対策は評価しているが、荷主には発荷主と着荷主があり、着荷主への働きかけが弱いのではないか」と指摘した上で、発荷主からの輸送委託も着荷主からの指示に基づくことが多いことを考慮し、「着荷主も輸送における荷主であることを明確化してほしい」と発言。厚労省の担当者は「ドライバーの残業や待機時間の短縮には着荷主側の理解と協力が大きな要素となる。改善基準告示を見直すためにも、着荷主の状況など実態を把握して改正作業に向けて議論する。国交省や荷主を所管する官庁と連携しながら対策を取っていく」とした。

全国消費者団体連絡会の浦郷由季事務局長は着荷主の理解が重要だとした上で、「着荷主の先には最終的には一般消費者・国民がいるのだから、消費者の意識を変えていくべき」と述べ、「物流の抱える課題について国民への啓発が重要であり、消費者に身近な宅配便での再配達抑制やオリ・パラ開催時の物流のあり方について国民の理解を広げるため、行政がもっと積極的に周知活動を行うべき」と意見を述べた。

地方では非協力的な有力荷主も

また、馬渡氏は「都道府県別のトラック輸送における取引環境・労働時間改善協議会(地方協議会)がパイロット事業やコンサルティング事業を行い、改善に協力的な荷主の優良事例がガイドラインにまとめられている。しかし、一部の協議会では、その地方で強い影響力を持つ主要な荷主企業がパイロット事業などには参加していない事情も見受けられる。有力な荷主ではあるものの、荷待ち時間や過剰な負担を強いる輸送依頼が多いなど〝ノートリアス〟(評判の悪い)といえる荷主もある」と述べ、「地方協議会では、実証事業を実施したことでお茶をにごしているケースもあるようだ。中央協議会や荷主所管の省庁から、非協力的な〝ノートリアス〟な荷主に対し、改善を促す働きかけを行ってほしい」と要望した。

それに関連し、運輸労連の難波淳介中央執行委員長は「昨年末に成立した改正事業法では、2023年度末までの時限措置ではあるが、国交大臣による荷主への働きかけや協力要請、勧告・荷主名公表などの規定が新設された。荷主勧告制度はあくまでも勧告を行うことが目的ではなく、トラック事業者が働き方改革を進め、法令遵守の運行ができるように荷主に対して改善を促すものだ。ドライバーの労働環境を良くしていくためにも勧告の発出以前に荷主が改善に取り組むよう関係行政機関はしっかりと対応してほしい」と訴えた。

機器導入へトラックへの支援強化を

生産性向上と効率化の議論では、全ト協の浅井副会長が発言。「労働生産性を上げるための機械化・自動化は、ヒトが担う運送業では限定的にしか行えないため、ドライバーを支援する各種機器の活用が特に重要だ。最新のドライブレコーダやデジタルタコグラフ、車両動態管理システム、車線維持装置など運行支援機器やテールゲートリフターなど荷役補助機器等の導入が有効。導入促進を図るため行政による支援強化が必要だ」と訴えた。

また、馬渡氏は「SDGs(持続可能な開発目標)を踏まえた経済活動には、荷主による物流効率化の取り組みが不可欠だ。荷主がリードタイムを見直すことで運送の手配にも余裕ができ、働き方改革にも資するところがある」と強調。オリ・パラ開催時のTDM(交通需要マネジメント)による輸送量コントロールなどに対応する荷主と事業者が連携した取り組みを「オリ・パラ後にもレガシーとして残すべき」と提言した。
(2019年10月15日号)


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