巻頭レポート 加速する荷主間の協働・連携
深刻なドライバー不足をきっかけにサプライチェーンの持続可能性が問われる中、昨年策定された総合物流施策大綱では、企業間の連携・協働により物流危機を乗り超える方向性が打ち出された。トラックドライバー不足による「運べない」事態を回避するため、さらには自然災害対策としての輸送モードの輻輳化に向け、サプライチェーンを主導する荷主企業は業界内、業界の枠を超えた協働・連携の“輪”を急速に拡大している。
モーダルシフト、待機時間対策も共同で
物流共同化のパイオニアになりつつあるビール業界。アサヒビール、キリンビール、サッポロビール、サントリービールのビール4社は昨年9月、JR貨物、日本通運と連携し、北海道・道東エリア(釧路・根室地区)向けに共同輸送を開始した。ビール2社、3社による共同化事例はこれまでにもあったが、4社が顔をそろえたのは初めて。
今年4月には、第2弾として関西・中国地区と九州地区の間で商品の共同配送を開始。関西・中国にある4社の物流拠点から大阪と岡山のJR貨物ターミナル駅に商品を集め、福岡貨物ターミナル駅まで鉄道輸送。九州から関西・中国への商品については、空きコンテナの輸送枠を活用し、コスト削減にも配慮した。
共通課題である「トラックの待機時間対策」にも4社が共同で取り組んでいる。届け先である日本酒類販売の発案により、神奈川県内の物流センターに専用バースを設置して、4社が計画的に納品時間を分散させるトライアルを実施し、待機時間の大幅な削減を実現した。
飲料業界にも共同物流の動きが広がってきている。キリンビバレッジとアサヒ飲料は6月から清涼飲料水の共同輸送を開始。アサヒ飲料の定期利用を背景に、5月に就航した清水港~仙台・北海道の定期航路において、6月から順次キリンビバレッジが輸送をスタートしている。
合弁会社、物流子会社統合まで踏み込む
合弁会社の設立、物流子会社の統合など過去にない踏み込んだ形での物流共同化を推進するのが、加工食品業界だ。味の素、カゴメ、Mizkan、日清オイリオグループ、日清フーズ、ハウス食品グループ本社の6社は2015年2月に、食品企業物流プラットフォーム(F‐LINE)構築に合意。
16年4月から北海道地区で6社による共同配送をスタートし、来年1月からは九州地区に拡大。4社の出資による合弁会社「F‐LINE」「九州F‐LINE」を発足させたのに続き、5社は19年4月に全国規模の物流合弁会社を立ち上げ、物流子会社の事業統合を行う。
なお、16年5月には、F‐LINEの6社にキユーピー、キッコーマンを加えた8社による「食品物流未来推進会議(SBM会議)」が発足している。製・配・販の物流課題について共同で取り組むもので、昨年は日本加工食品卸協会とドライバーの荷役作業現場での安全対策に関する協議も行った。
卸にも共同配送が波及。日本加工食品卸協会(日食協、國分晃会長)ではトラックドライバー不足に対応するため、共同配送推進の手引きを作成。手引きでは三菱食品、伊藤忠食品、日酒販の大手3社の共同配送事例も紹介している。
「危険物」「小口品」が共同化のターゲット
共同化が遅れていると言われている化学業界でも取り組みが拡大してきた。先陣を切ったのが三菱ケミカルと住友化学。15年7月から、物流子会社と連携し、三菱ケミカルの水島事業所(岡山県倉敷市)、住友化学の愛媛工場(愛媛県新居浜市)から北関東地区向けの危険物小口輸送について共同配送を開始した。
16年6月からは、千葉・京葉地区に工場を持つ三井化学、出光興産、東レ、JSR、プライムポリマー、三井・デュポン ポリケミカルの化学メーカー6社が東北エリアを対象とした小口貨物の共同輸送をスタート。18年6月からはクレハなど化学5社が福島県いわき市内の各社生産拠点から出荷する小口貨物の全国への共同配送を開始した。
安定供給、事業継続のための共同センターも
ライバル同士の企業連携が話題となった医薬品業界。アステラス製薬、武田薬品工業、武田テバファーマ、武田テバ薬品は、大規模災害時の安定供給と事業継続の観点から、物流拠点を“分散化”するための共同物流センターを札幌市内で開設。GDP(医薬品の適正流通基準)に基づく物流機能や品質管理基準を統一化した。
共同物流プラットフォームへの“相乗り”の動きもある。大塚製薬子会社の大塚倉庫と龍角散は今年8月に、同社服薬ゼリーの全国物流で業務提携を締結。大塚製薬グループの物流プラットフォームをベースとした共同物流の仕組みを活用する。今後は、一般用医薬品(OTC)やのど飴等の食品カテゴリーの共同物流も視野に入れる。
「パレット」を切り口とした共同化事例も
最近の物流共同化では「パレット」を切り口とした事例が目立つ。王子ネピア、カミ商事、大王製紙、日本製紙クレシアの家庭紙メーカーの4社は、レンタルパレットのユーピーアールと統一パレットの利用・回収に関する業務提携契約を締結。「家庭紙パレット共同利用研究会」を6月に設立し、秋から統一パレットの運用を開始する。
また、キユーピーとライオンは、共通のトレーラを活用した共同幹線輸送を8月22日から開始。日本パレットレンタルのレンタルパレットのデポへの供給・回収とキユーピー、ライオンの製品輸送とを組み合わせることで、輸送工程のほぼすべてを実車化するとともに、フェリー輸送を積極活用につなげる。
異業種、サプライチェーンの“縦”の連携も
異業種間の物流共同化も進む。サントリーホールディングスと日清食品は17年6月から、北海道の帯広エリアへの共同配送を実施。サントリーの重量商品と日清食品の軽量商品の組み合わせが配送時の混載に適しており、年間の物流量のピークが異なるため、共同化が実現。その後も地区を拡大しており、東北では倉庫の共同保管も開始した。
小売とメーカー間などサプライチェーンの“縦”の連携も進む。イオンと花王は16年6月から、関東~中部間において異業種企間では国内初となるトラックの中継輸送を開始。中継輸送を行う幹線輸送に販売、調達の輸送を“結合”させたことでコストメリットも拡大させた。
イオンは昨年7月から、サッポロホールディングスと中部~九州間でRORO船を活用した共同運航を開始。イオンは福岡県内のトップバリュ生産工場から西関東RDC・北関東RDCへ、サッポロは静岡県内のサッポロ委託先工場から佐賀県内の物流センターへ商品を納品する。
コンテナのスペースを共同利用
異業種間の共同物流の手法のひとつとしてコンテナの往復運用がある。例えば、片道運用だとコスト高になる鉄道用の31ftコンテナ。キヤノンとダイキン工業は14年から、大型特殊31ftコンテナの共同利用を開始。大阪発はダイキン、東京発はキヤノンの製品を積むことで大阪~東京間を鉄道で往復輸送している。
輸出入コンテナのラウンドユースもクボタ、サントリーなどキーとなる荷主を中心に取り組みが広がる。サントリーとコマツの事例では、ビールの原料である麦芽の輸入に使った海上コンテナを、コマツの建機部品などの輸出に活用。西日本では昨年8月から開始し、関東への拡大も進めている。
こうした共同物流の機運を受けて、各種コーディネート機能やプラットフォーム機能を担う物流会社の存在感が増している。また、大規模倉庫や庫内のロボットなどを「共同でシェアする」ことを提案する、新たなビジネスも登場。共同物流の担い手として参画できるかどうかが、成長のカギを握っている。
(2018年9月27日号)