メニュー

「人」と「絆」で持続的成長を実現する

生産領域における事業展開など、通常の物流企業にとどまらない広範な事業ポートフォリオを持つ鴻池運輸。創業139周年という屈指の老舗企業でありながら、成長の歩みを続ける鴻池運輸をコアとするKONOIKEグループの現状と将来に向けた成長のシナリオについて、鴻池忠彦社長に聞いた――。        
(インタビュアー/西村旦・本紙編集長)

ブランドメッセージでグループに息づくDNAを改めて可視化した

 

――今年1月に「私たちのブランド」というKONOIKEグループとしてのブランドメッセージを対外的に発表しました。まずは、このタイミングでブランドメッセージを策定した背景と、そこに込められた鴻池社長の思いを教えて下さい。

鴻池 鴻池運輸は2013年3月に株式上場して約6年半が経過しました。株式を上場するということは、当然のことですが、企業としてより高い社会性や透明性が求められます。そのために、KONOIKEグループの正しい姿や大事にしている理念について社内外に積極的に発信し、理解してもらうことが大事だと考えました。

また、2018年3月期はちょうど前中期(3ヵ年)経営計画の最終年度だったのですが、その振り返りの中で、経営ビジョンや会社として目指すべき方向性の明示がいまひとつ足りていないということが課題や反省点として浮かび上がってきました。KONOIKEグループが何を大切にし、何を目指しているかについてのメッセージが、対外的にもグループの従業員にもしっかり伝わっていないという課題が見えてきたので、そこはしっかりと反省して改めていきたいと考えたわけです。

これから100年先も私たちが社会や株主、お取引先様から求められる企業であり続けるためには、長期的な経営基盤の強化はもちろんですが、まずはその前提となる共通理念や価値観を持つ必要がある――。そうした思いからブランドメッセージの策定作業に入りました。

 

――持続的な成長を続けていくためには、グループとしてのDNAや理念を改めて“見える化”していく必要があると。

鴻池 ひとことで言えば企業理念の再構築ということです。まずは理念を策定した上で、それに基づいて、一定期間内に到達すべき姿としての数値目標の策定に取り掛かりました。2030年にちょうど創業150周年という節目を迎えることもあり、17年11月、新中期経営計画の策定にあたり「2030年ビジョン」を策定して、2030年時点にKONOIKEグループとしてあるべき姿を数値目標として打ち出しました。

他方、その土台となるべき企業理念の再構築については、グループの従業員一人ひとりがステークホルダーに対してどのような思いを持ちながら日々仕事をしているか、そもそもKONOIKEグループは何のために存在しているのか――。そうした問いかけを私も含めた経営陣や、現場の第一線で働く従業員に至るまで、外部の力も借りながら綿密にヒアリングを行いました。その結果、共通するDNAとして浮かび上がってきたのが「人」と「絆」への強い思いでした。

基本はやはり「人」です。人が人を思い、つながることで「絆」が生まれます。従業員が先輩や後輩といった職場の仲間、お客様、様々なステークホルダーのことを思い、つながることによって信頼関係や絆が生まれてきます。そうした私たちの中に息づいていたDNAをもとに、改めて「私たちのブランド」という形で企業理念を再構築したわけです。そして、その理念を対外的にお示しするメッセージとして『期待を超えなければ、仕事ではない』という言葉を「私たちの約束」という形で発表しました。

KONOIKEグループのブランド全体像

 

――先ほど、企業理念がいまひとつ共有されていなかったことが反省点だと言われていました。

鴻池 より正確に言うと、根底に共通したDNAはあったのですが、従業員一人ひとりがそのことを明確に認識していなかったということだと思います。元々あったにもかかわらず、自覚されていなかった。それを外部の専門家の力もお借りしながら、改めて可視化する作業を行ったということです。例えるなら、砂の下に埋もれていたものを掘り起こして砂をとり払ったら「人」と「絆」という文字が出てきた・・・(笑)。何もなかったところにとって付けたように新しい概念をつくったということではなく、意識の深い場所に宿していたDNAを改めて顕在化させたということだと思っています。

 

――社内外に広く発信して、浸透させていくプロセスが重要ですね。

鴻池 対外的にブランドメッセージを公表したのは今年1月ですが、社内的には昨年5月に発表しました。その直後からグループ会社も含めた各現場で「カタリバ」と名付けたブランドについて語り合う会を開催して浸透を図っています。本社が直接関与しているだけで、すでに約30ヵ所で開催しており、これ以外にも各現場が自主的に開いているものもあります。こうした機会はこれまであまりありませんでした。あるべき会社の姿と現実とのギャップなどについて、役職や立場を離れて従業員が意見交換することで、相互理解や結束力、つまり「絆」がさらに深まるいい機会になっていると考えています。また、ブランドメッセージの英語版も制作し、海外法人で働くグループ社員にも発信しています。

グループの各現場で開催される「カタリバ」

 

現中計の3ヵ年で将来の成長に向けた基盤をつくる

 

――さきほどお話に出た「2030年ビジョン」で、創業150年を迎える時点でのグループのあるべき姿を打ち出しています。さらに、そこに至るステップとして3ヵ年ごとの中期経営計画があるという建てつけだと思いますが、現在進行中の中期経営計画は前期が初年度で、今期が2年目となっています。まずは前期の振り返りについて教えて下さい。

鴻池 前期の連結売上高は2941億円となり、6・3%の増収となりましたが、営業利益は109億円で、ほぼ横ばいの微減という結果でした。減益のおもな理由は、昨年は台風や地震などの自然災害が多くその影響を受けたということに尽きます。とくにグランドハンドリング業務を中心とした空港関連事業において、関西国際空港が台風の直撃を受けて一時的に空港機能がストップしてしまったことが大きく響きました。ただ、そうした一過性の要因を除けば実質的に増収増益でした。

現在進行中の中期経営計画については、ひとことで言えば2030年に向けた「基盤づくり」の3年間だと位置付けており、そのための一定のコストを見込んでいます。仮にそうした支出がなければ、もう少し利益が出ていたという言い方もできますが、あくまでKONOIKEグループが持続的な成長を続けていくために必要なコストだと認識しています。

 

――基盤づくりとは具体的にどういったものになりますか?

鴻池 項目としては、働き方改革に伴う人材面での整備、システム投資、安全品質の維持・向上に加えて、さきほど説明したブランド面での基盤整備などです。前期はこうした基盤づくりに通常の投資とは別に14億円を投資しました。

基盤づくりを進めていく上で、課題のひとつとして考えているのは、従業員一人ひとりが取り組んでいる業務目標とその評価のあり方です。その点については、KPIとモニタリングを明確にしていくとともに、それを人事や報酬などの評価につなげていく仕組みを構築していきます。また、業績評価についても、これまではおもに売上高と利益に着目していましたが、今後はそれに加えてROIC(投下資本利益率)、つまり投下した資本に対してどれだけのリターンが得られているかをより重視していく方針です。

 

――今期を含めた中計の残り2年間も、基盤づくりの方針を堅持していく。

鴻池 基本的には将来を見据えた一定の投資を続ける方針で進めていきます。ただ、足元の経済環境の雲行きが少し怪しくなっているのが懸念材料です。米中貿易摩擦や欧州でのブレグジット、韓国との摩擦などグローバル規模で不安が広がっています。実際、すでに航空貨物などで影響が顕在化しています。KONOIKEグループの場合、航空フォワーディングのポーションはそれほど大きくないものの、マーケット全体での航空貨物の減少は空港でのグラハン業務に大きな影響を及ぼします。

 

――10月に予定される消費増税の影響をどう見ていますか?御社の場合、消費財も多く取り扱っています。

鴻池 トータルで見ればマイナスだと考えています。物流は、波動が大きいよりも物量が平準化されているほうが効率的です。増税前の駆け込み需要があったとしても、その後の反動減などを考慮すると、コストや倉庫オペレーションの効率性から考えても若干のマイナスになるだろうと予想しています。

 

「2030年ビジョン」であるべき姿を実現していく

 

――「2030年ビジョン」についてお伺いします。30年時点でのKONOIKEグループの“あるべき姿”として、売上高を3500~5000億円に拡大すること、「物流」と純粋な物流以外の「サービス」の比率を4対6、国内・海外の比率を8対2にすることに加え、さらなる事業の多角化を進めていくとしています。まず、事業の多角化についてですが、「10事業本部以上」を一応の目標に掲げています。

鴻池 事業の多角化を進めていく最大の目的は安定性の確保ということに尽きます。ごくシンプルに言っても、2本足で立つよりも3本足、4本足で立っているほうが安定感が増すことは間違いありません。仮にどこかの事業が低迷しても、その他の事業がカバーしてくれる――その足場やスタンスが広ければ広いほどいいと考えています。現在、KONOIKEグループには9つの事業本部がありますので、プラス1以上ということになりますが、とくに「10」という数字にこだわっているわけではありません。

 

――多角化の進め方や対象事業についてはどんなイメージをお持ちですか?

鴻池 KONOIKEグループとまったく関係のない新規事業領域にウイングを広げていくことは考えていません。あくまでコア事業である「物流」から派生する事業の芽を育てていくことで多角化を実現していきます。具体的なことは、今後の外部環境やニーズなどを見極めながら検討していきます。

事業領域の多角化が進む
(写真上がメディカル関連、下は空港関連業務)

 

物流の“両端”を広げることで付加価値を生み出す

 

――「物流」と「サービス」の売上比率を4対6にしていくということですが、これはサービスの比率を相対的に高めていくということでしょうか?

鴻池 現状はおおよそ5対5ですので、ご指摘のように「サービス」の事業比率を相対的に伸ばしていくということです。けっして「物流」を減らすという意味ではなく、全体を増やしながらサービスの比率を高めていくことを想定しています。単なる保管、輸送といった従来型の物流業務だけで付加価値を生み出していくことは難しい時代になっています。そこで物流にサービスの要素を加える、つまり物流の“両端”を広げ、そこにサービスを付加していくというイメージです。ですから、物流とサービスというのは対立概念ではなく、あくまでコア領域たる物流が基盤にあってのことです。

 

――サービスの一例を挙げるとすると。

鴻池 KONOIKEグループは冷凍冷蔵倉庫を中心とした定温物流を国内外で幅広く展開しています。その中で、私たちに定温物流業務を任せていただいているメーカーなどのお客様にとって、最も重要な業務は実はその入口と出口である「冷凍技術」と「解凍技術」です。その部分、まさに物流の“両端”にある業務を私たちが取り込むことができれば、付加価値を高めることにつながりますし、お客様の効率化にも貢献できます。実はこうした取り組みは一部で開始しており、今年4月に大阪木津卸売市場内に開設した食品加工場で、和食材の加工業務や高度急速冷凍加工などの業務を請け負っています。

こうしたことは一例に過ぎませんが、KONOIKEグループが手掛けている事業領域の中でも同じような取り組みができる可能性はまだまだあると思います。また、これまでは国内だけでやっていたサービスを海外にも水平展開していくというパターンでサービスの事業比率を高めていくことも可能です。

木津卸売市場の食品加工場

 

海外事業における最大の伸びしろはインド

 

――国内と海外の比率を8対2にする方針についてはいかがでしょうか? 御社は今年4月にインド統括本部を新設するなど、インドでの事業拡大に注力されています。

鴻池 ご指摘の通り、最大の伸びしろはインドだと考えています。世界の購買力平価GDPのランキングを見ると、現時点でインドは中国、米国に次ぐ3位になっており、30年には米国を抜いて2位に浮上します。また、人口ランキングでは30年にインドが15億2000万人を超えて世界1位となり、50年には16億6000万人まで増える予測となっています。ちなみに日本の購買力平価GDPは現在4位で、50年には残念ながら8位まで下がってしまいます。

こうした客観的なデータを見ても、インドはマーケットとして魅力的であり、今後も発展していくことは間違いありません。また、これは私の動物的な勘なのですが、インドに行った時「この国は発展する」と確信しました。インドはよく、合う人と合わない人がはっきりする国だと言われますが、私個人としては間違いなく合います(笑)。

 

――経営者の直感は大事だと思います。そのインドでは貨物鉄道事業に参入するなど、インフラ部分に積極的に関与しているのが特徴的です。

鴻池 貨物鉄道事業については、現地企業との合弁会社を通じて17年からCTO(鉄道コンテナ輸送事業)を開始したのに加え、今年3月からはAFTO(自動車鉄道輸送事業)もスタートしました。インドは国土が広く、英国に統治されていたため鉄道網が整備されています。現状はトラック輸送が物流の主体ですが、将来的に鉄道への依存度は間違いなく高まっていくだろうと考えています。とくに日本のODA(政府開発援助)によって整備が進められているDFC(インド貨物専用鉄道建設計画)が完成すれば、貨物鉄道の課題である定時性などがクリアされてサービスが安定します。現状では旅客優先のために定時運行が厳しい面がありますが、貨物専用鉄道ができればこうした課題も解消されていくでしょう。

それ以外にも、インドでは医療材料のデータベース化など医療関連の事業も手掛けていますが、いずれも目先の収益というよりも、もう少し長い目線で将来への布石を打っています。

インドで鉄道コンテナ輸送事業を展開

 

――インド以外の海外についてはいかがでしょう。

鴻池 93年にベトナムに日系物流企業として最初に進出しており、事業基盤はかなり整っています。また、それ以外のASEAN各国や米国西海岸、メキシコなどKONOIKEグループがすでに進出しているエリアについてもさらに事業を拡大していきたいと考えています。

他方、30年以降というロングレンジでは、新たな市場としてアフリカが間違いなく視野に入ってくるでしょう。現段階では具体的な進出計画があるわけではありませんが、いずれかの段階で進出を本格的に検討していくことになると思います。

 

メーカーの生産工程まで入って仕事をしている“強み”

 

――社長ご自身の眼から見て、改めてKONOIKEグループの強みはどこにあると考えていますか。

鴻池 ひとことで言えば、狭義の物流だけでなく、製造業の生産工程にまで入って仕事をさせていただいていることです。メーカーの“ものづくり”のお手伝い(請負)をさせていただきながら、それと物流を組み合わせた複合サービスを提供できることだと思います。これまでもKONOIKEグループならではの独自性として取り組んできましたが、この領域はまだまだ拡大できると考えています。とくに海外では、生産請負という手法がまだまだ定着していません。ここにきて一部で取り組みが具体化してきていますので、そこをさらに拡大していきたいと考えています。

“ものづくり”と“物流”の複合サービスを提供する

 

――全世界にサプライチェーンが広がれば、当然のように分業化が進みます。生産請負という形でのアウトソーシングは増えると思います。

鴻池 私もそう思います。海外ではまだ派遣という形が中心ですが、派遣の場合はソフト部分で付加価値をつけることが難しい面があります。一方、請負は例えば機械化などを通じて生産性を高めるといった創意工夫が可能なので、やり方次第で競争力を高めていける余地があります。

 

一歩先んじてロボット化・自動化に動き出す

 

――通常の物流企業は工場の門の外からの物流しか受託していませんが、御社は生産工程まで深くコミットしています。そういう点でメーカーの物流に関わる根本的な課題やニーズへの理解度が高いということもできます。

鴻池 今後、労働力不足がさらに進めば、機械化・省力化の動きは物流だけでなく、製造業や空港・医療などのサービス業の領域でも加速度的に進んでいくことは間違いありません。その中で、私たちはそうした動きに一歩先んじて自ら機械化やロボット化を提案できるようなアプローチを強めていきたいと思います。ロボットメーカーは技術的な専門性は素晴らしいと思いますが、その専門性を活かすための製造現場の細かい潜在的ニーズの発掘については課題があると思います。それに対して、私たちは製造現場に深く入り込んでおり、現場実態に即した細かい課題の検出や、その改善策を提案することができます。お客様メーカーとロボットメーカーとの間に我々が立つことで、ロボット化・省力化のお手伝いができるのではないかと考えています。

 

――新技術については、最新技術に通じたベンチャーキャピタルに出資するなど積極的な対応を進めていますね。

鴻池 ロボット化や無人化へのシフトが避けられない中で、お客様の現場実態に即した課題の解決に向けて、自ら積極的に働き掛けや提案をしていかないと、我々の仕事がなくなってしまうという危機感を持っています。その意味で、アンテナを高く掲げておくことが大事になります。ベンチャーやスタートアップなどの新技術は、現状では日本よりも海外のほうに注目すべき技術が多い傾向があります。

ただ、我々自身がそうした優れた技術を見つけるのはなかなか難しいこともあり、目利きのできるベンチャーキャピタルに出資をしました。今後は、最新技術を吸い上げながら、そこにKONOIKEグループのノウハウや知見を絡め、物流現場や製造現場に落とし込める技術を共同で開発していきたいと考えています。

 

――社長ご自身の感覚として、現場の無人化はどのくらいのスピードで進んでいくとお考えですか?

鴻池 できる部分は加速度的に進むかもしれませんが、私はすべての業務をロボット化してフルオートマティック化する必要はないと考えています。アナログ技術でも使えるものはありますし、現場によっては自動化するよりも効率が高い場合もあり得ます。ロボットメーカーの主導になると、どうしてもフルオートマティックになりがちなので、そこは現場を知る我々の知見を入れていくことで、現在あるハードを活かしながら最新技術とのより良い組み合わせを提案していきたいと思っています。

 

――自動化では、空港のグランドハンドリング業務で自動運転の実証実験に協力していますね。

鴻池 政府はいま、年間訪日外国人の数を20年に4000万人、さらに将来的には6000万人という目標を掲げています。それだけ訪日観光客が増えれば、空港のキャパシティを拡大しなければならず、当然グラハンの業務量も増えます。グラハン業務においても労働力不足が深刻化しており、自動化や機械化による効率化・省力化は避けて通れないテーマですし、外国人労働者の雇用についても同様です。

グラハン業務で自動運転の実験に協力

 

外国人ドライバーへの抵抗感はない

 

――外国人労働者の雇用では、入管法改正による特定技能14業種のひとつにグラハン業務は入りました。

鴻池 制度の詳細はまだ明確になっていませんが、積極的に利用することで海外からの人材を労働力として活用していきたいと思います。

KONOIKEグループでは現在、技能実習制度を活用しておもにフィリピンの弊社グループ会社が現地で採用している人材など約300人の外国人実習生を受け入れています。とくに、業務量が急拡大する空港業務においては、今般、鴻池運輸が技能実習評価試験の実施機関として認定を受けましたので、技能実習2号を修了して検定にも合格すれば、特定技能1号の在留資格(5年)に変更できる資格を得ることができるようになりました。これは私たちにとっても、実習生の皆さんにとっても大変な価値があることだと思います。このほかにもグループの多くの現場で多様な外国人労働者を雇用していますので、現場で様々な言語による作業マニュアルなども整備しています。

多数の外国人技能実習生を受け入れ

 

――外国人トラックドライバーの解禁についてはどのように考えていますか? 物流業界でも様々な意見があるようですが。

鴻池 あくまで私見ですが、抵抗感はありません。積極的に働いていただけたらよいと思っています。しかし当然のことながら、安全は絶対的なものであり、安全水準の維持などには細心の注意を払う必要があります。逆に安全性やコンプライアンス面の担保ができれば問題はないのではないでしょうか。もちろん前提として、日本語によるコミュニケーション能力があることは必須と思いますが、将来的に自動翻訳技術がさらに高度化すれば問題はなくなると思います。現在でも、KONOIKEグループの倉庫や空港など、現場で多くの外国人が働いていますが、日本人以上に真面目だなと感じる場面が多々あります。

 

若い社員の芽を摘まないためにも待遇改善を

 

――働き方改革関連では、今年4月から新たな賃金制度を導入しました。

鴻池 旧来の年功序列の日本型雇用を少しアレンジして、初任給をはじめとする若い社員の賃金を引き上げる一方、その後の賃金カーブを少し緩やかにする方向で見直しました。同時に、60歳定年後の再雇用の処遇についても、将来の65歳までの定年延長を視野に入れながら再雇用時の大幅な賃金ダウンについて見直しを加えています。

 

――基本的には、若い社員に対する待遇を改善したということですね。

鴻池 その通りです。私がいま非常に気がかりなのは、日本全体の人口構成の中で若年層の比率が下がっていることです。例えば、国勢調査によれば40年前の1970年代には16~39歳の比率は6割近くを占めていましたが、2015年には3割台にまで低下しており、現在はさらに低下していると思われます。KONOIKEグループの中でも同様の傾向がありますから、どうしても上の層の社員の意見が反映されやすくなり、若い社員たちの意見や考え方が採用されにくくなってしまいます。昔の成功体験を持った社員が、ともすれば少し古くなった価値観を押し付けてしまうような構造ができあがりやすくなってしまいます。基本的に若い社員たちは優秀です。そうした若い人の可能性の芽を摘んでしまうのはもったいないし、会社としても大きな損失です。上の層の社員にはそうしたリスクを常に自覚して欲しいと伝えています。

若い社員の可能性を大事にしていきたい

 

シナジー重視、積み木を積むようなM&Aをやらない

 

――現中計における「基盤づくり」にも関連すると思いますが、ここ数年M&Aに積極的です。M&Aに対する基本的なスタンスについて教えて下さい。

鴻池 KONOIKEグループの既存事業とのシナジーが見込まれるものについて進めていくのが基本スタンスです。単に売上げを増やすためだけの積み木を積み上げるようなM&Aをやるつもりはありません。また、参入障壁が高い事業や分野に新規参入するための手法として、M&Aを活用することはあり得ます。インドにおける貨物鉄道事業への参入は、まさに出資を通じて新たな事業に参入を果たした事例のひとつと言えます。今後も、チャンスがあれば前向きに取り組んでいきます。

 

地域社会との「絆」を大事にしていきたい

 

――ステークホルダーとの関わりの中でも、とくに地域社会との「絆」に力を入れています。

鴻池 KONOIKEグループの従業員は地域で採用され、そのエリアで勤務しているケースが多くなっています。その点からも地域社会は重要なステークホルダーであり、ともに共栄をはかっていくことが事業を継続していくためにも重要だと考えています。その一環として最近、お取引先である大手食品会社が行っている工場見学デーに合わせて、地域の子どもたちに交通安全を教える催しを開催しました。会場で鴻池運輸のトラックを展示して、子どもたちが実際の運転席に乗ってミラーやモニターの死角を体験してもらうなど、楽しみながら安全を学べるもので、非常に好評でした。今後は全国各地で同様のイベントを開催して、地域社会で「人」と「絆」を深めていきたいと考えています。

地域との「絆」を大切にしていく
(子どもたちに交通安全を教える)

 

 

鴻池忠彦(こうのいけ・ただひこ)
1976年鴻池組入社。81年鴻池運輸入社、常務取締役、専務取締役、89年代表取締役副社長を経て、2003年6月代表取締役社長。18年4月代表取締役兼社長執行役員。53年大阪府出身。関西学院大学商学部卒