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改善基準告示改正、スケジュールずれ込みも?=厚労省 

2020.06.18

自動車運転者の労働時間の改善のための基準(改善基準告示)の見直しを検討する厚生労働省の専門委員会の第2回会合(写真)が12日に開催され、トラック、バス、ハイヤー・タクシー業界と厚労省との間で、改正の前提となる労働時間の実態調査の実施時期について議論が白熱した。新型コロナウイルスの感染拡大で運行形態に変化が生じており、来年以降への延期を求める意見が相次いだためだ。厚労省では今年の調査実施と、改正時期を2021年12月とする姿勢を崩していないが、調査時期が延期すれば改正のスケジュールがずれ込む可能性もある。

“スケジュールありき”に違和感

厚労省では、昨年と今年の11月(通常期)および12月(繁忙期)の労働時間について実態調査を実施する案を提示。これに対し、全日本トラック協会副会長を務める馬渡雅敏委員は「トラックでは、荷種により状況に濃淡がある。食品・飲料など多忙な業種もあれば、自動車部品など工場の出荷停止で仕事がストップした事業者など様々だ」とした上で「議論の前提となる実態調査は、コロナ収束が見通せない今年ではなく来年に行うべき。告示改正が21年12月のオン・スケジュールだからといって“スケジュールありき”で今年調査を行うことには違和感を覚える」と指摘した。

また、バス、ハイタクの事業者側委員からも「新型コロナウイルス感染拡大により経営環境が悪化し、いまだに収束の見通しが判明しておらず、異常な条件下での乗務が行われている。それでは意味のある調査は行えない。調査以前に業界の存続自体に危機感を持っている」と調査時期の延期を求める意向を表明した。

改正時期、「遅らせるべきでない」と厚労省

厚労省側は、改善基準告示の改正後、一定の周知期間を置き、ドライバー職に罰則付き時間外労働規制適用が始まる24年4月から施行する方針を改めて説明。「コロナの影響が及んでいるとしても、今年の労働時間のデータを収集しておくことは有益。不足するデータについても来年にスポット的に調査を実施できる」とし、「長時間労働に起因する過労死の発生件数は、トラック運送業が一番多い。改善基準告示の改正を21年12月よりも遅らせるべきではない」と強調した。

労組側は「調査にはかなりの時間と労力が必要」

トラック労組側の委員として参加している運輸労連中央副執行委員長の世永正伸委員は「労組としては過労死防止に向けた長時間労働改善という方針で臨んでおり、改正された告示の施行時期は譲れない。告示改正自体は遅れても、周知期間を短縮すれば施行には間に合うのでは」と主張。一方で「コロナで繁忙な事業者に対し、昨年の労働時間実態を提出させることは、かなりの困難を伴う」との見方を示した。

交通労連トラック部会事務局長の貫正和委員は「コロナの影響で扱う荷種によって繁閑差が生じているが全体では昨年の8割程度で稼働している。今まで通りの運行形態になっていない以上、実態調査は今年ではなく、来年に実施してほしい」と要望。「昨年の運行実態を調べるにも、アナログの運行記録の事業者がまだ多いため、かなりの時間と労力がかかる。現実を反映した生のデータにならない可能性すらある」と指摘し、厚労省側の実態調査スケジュールに疑義を呈した。今回の会合では、事業者・労働組合と厚労省の間で実態調査の実施時期について合意は得られず、8月中旬以降に開催する予定の次回会合に持ち越された。
(2020年6月18日号)


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