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「標準運賃」はどこまで実効性を持てるか?

2020.01.07

平成2年タリフの2~3割アップか

トラック業界の最大の関心事は、まもなく制度案が公表される「標準的な運賃の告示制度」だ。ドライバーの処遇を改善するために改正貨物自動車運送事業法に盛り込まれた“目玉”の施策で、ドライバーに年960時間の時間外労働規制が適用される2023年度末までの“時限”的な措置だ。「適正な原価に基づき、適正な利益を確保できる水準」の運賃がタリフとして示されることになるが、運賃は需給や荷主との力関係によって決まるため、実勢運賃との乖離が生じ、従来のタリフ同様、有名無実化する可能性も指摘されている。

「標準的な運賃の告示制度」は、1990年の物流二法による規制緩和以降、トラック運送業界が陥った過当競争、運賃デフレ、低賃金からの早期脱却を図るために導入するもの。運賃アップによりドライバー確保の“原資”を確保し、時間外労働上限規制が始まる24年度までに、働き方改革とドライバー不足解消を一気に進める“特効薬”として期待される。

その策定方針によると、賃金と労働時間の水準を全産業平均並みに是正することを前提に、安全運行やコンプライアンスコスト、他産業より低い人件費などもろもろの要素に配慮して「標準」を算出する。関係者によると、現状の運賃水準は最後の認可運賃である平成2年タリフの水準をまだ下回っており、標準運賃はそのレベルから2~3割アップあたりに落ち着くのではないかとも囁かれる。

運賃交渉の“切り札”として通用するか

「自助努力で運賃アップを図るのは限界。標準的な運賃により荷主に合理的なコストを理解していただき、運賃の適正化を実現したい」、「国が定める以上、荷主も運賃を見直す契機となるのではないか」――。事業者は運賃交渉の“切り札”としての期待を強めている。一方で、「タリフなんてこの20年間見たことがない」という荷主もあり、どこまで通用するかは疑問だ。

事業者からは、「運賃の問題を国に責任転嫁するのはどうか…。過度な期待を持つのは危険」、「そもそも運賃を国に決めてもらわないとやっていけないというところに構造的な問題がある」という厳しい意見も聞こえてくる。国は民民の自由取引を黙認してきており、そうした中で「標準的な運賃」がどれほど権威を集められるのか。

「現実の原価は制度が想定する適正原価よりも低い。『標準的な運賃』が示されたところで『実勢運賃』との大きな乖離が生じる」との見方もある。荷況が悪くなれば安値受注が始まり、繁忙期や災害後は高値受注できるのがマーケット。需給により「8掛け」も「数倍」もある世界で「標準」の持つ意味とは…。

ところで、未来の運賃はどうなるか――。AIやビッグデータを活用し、需給をリアルタイムに反映した「ダイナミックプライシング」がトラック輸送でも導入されていく可能性は高い。自動運転やシェアサービス、テレマティクスなど「TaaS(トラック・アズ・ア・サービス)」の大きな流れの中で、「原価と需給に基づいたトラック運賃」というシンプルな概念すら将来的には大きく揺らいでいくことも考えておく必要があるだろう。
(2020年1月7日号)


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