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「中計は順調にスタート」と山内社長=ヤマトHD

2018.03.15

ヤマトホールディングスの山内雅喜社長(写真左)とヤマト運輸の長尾裕社長は9日に都内で会見し、昨年9月に発表したグループ中期経営計画「KAIKAKU 2019 for NEXT100」(17~19年度)の進捗と2018年度以降の展開を説明した。

山内氏は「働き方改革」を軸に据える中期計画の進行状況について「グループ全体として順調なスタートが切れており、社員の働く環境も大きく変わっている」ことを強調。「デリバリー事業の構造改革」については長尾氏が、「基本運賃の改定や法人顧客とのプライシング、サービス変更などの施策で(業務量は)提供できるキャパシティに近づいている」と報告した。プライシング交渉もほぼ想定通りに推移しているとしたが、「現時点で適正と思われる着地点まで、一足飛びにはいかないお客様の方が多かった」ことも明かした。

働き方改革、現場への浸透が課題

会見で山内氏は、働き方改革の成果として、退社から出社まで一定時間を空ける「勤務間インターバル制度」の導入が進んでいることを紹介。デリバリー事業とホームコンビニエンス事業で10時間、Bizロジ事業では11時間のインターバルが確保できつつあると報告した。
一方、ヤマト運輸では「定量的にも定性的にもよくなってはいるが、どうしてもムラはある。当社のような身体の大きな会社では第一線の社員への浸透が容易でないことを痛感している」との状況を長尾氏が説明。引き続き、山内氏とともに71ヵ所の主管支店を訪問しながら「各現場に(意向を)伝えていきたい」とした。

「アンカーキャスト」の採用進める

中期計画では、総量コントロールなどで一旦は縮小する宅急便個数を、19年度以降は再度、拡大基調に戻す方針としている。その実現に向けた「デリバリー事業の構造改革」では、複合型のラストワンマイルネットワークの構築を急ぎ、長尾氏も「そのための動きをいかに短期間で行うかが重要」として、スピード感を求めた。

施策のひとつである、夜間の配達業務に特化したドライバー職「アンカーキャスト」の導入については、その半数を短時間勤務ドライバーなど社内からシフトする計画を明かした。セールスを行わず、固定地域の夜間配達のみを担当するもので、給与こそ業務相応の水準となるが、「今の働く人のニーズにハマるところも多い」(長尾氏)との見方を示した。

また、“届けない”集配キャパシティの拡大では、宅配ロッカー「PUDOステーション」が今月末には目標の3000基をほぼ達成する見通し。18年度は、全国十数万店舗に上る宅急便取扱店に絡めた設置やネットスーパー購入商品の受け取りなど新たな施策を想定し、長尾氏は「取扱店とのパートナーシップは時代に合わせた見直しも考えていく」と述べた。

また、宅配ボックスについては新築の集合・戸建て住宅への設置が進む一方で、既存住宅への後付け設置が課題となっている。現在はメーカーが各々に宅配ボックスを製造・販売しているが、その仕様の標準化について「当社としても一定の解を出さなくてはならない」(長尾氏)ことを指摘した。

不在再配達率の低下につながる「クロネコメンバーズ」も、拡充に向けて18年度には利便性を高める新サービスを計画する。
幹線便のキャパシティ拡大には、厚木・中部・関西ゲートウェイを結ぶ多頻度運行で対応するが、全長25mのフルトレーラ「SF25」は現在2セットを保有し、厚木~中部~大阪間をデイリーで運行する。山内氏は「ムダなく使うには1両目と2両目を別の会社が使うようなシェアリングがカギになる」と話した。

地方のサプライチェーンを支援

これらの取り組みに加え、ヤマト運輸が「大きな課題」として着目するのが、地方のサプライチェーン支援だ。各地方では生活者のみならず商店や中小企業でも仕入れなどの物流が困難になっており、同社が進める路線バスや鉄道を利用した「客貨混載」に商業貨物を積み合わせることも視野に入れるとした。
他方で、法人顧客とのプライシングについては、「段階的な値上げスケジュールを策定したお客様や、取り急ぎ今期の着地点を決めたお客様など、交渉の仕方は多岐にわたる」(長尾氏)とした上で、粗利率をある程度設定し、燃料費や人件費などの資源調達価格の変動を見ながら、毎年交渉の場を設けて協議を継続する方針を改めて示した。

ノンデリバリー事業「一段スピード上げる」

20年度以降の「NEXT100」の成長エンジンと位置付けるノンデリバリー事業では、「グローバル」と「法人領域」をターゲットにバリューネットワーキング構想を進めるが、「非連続成長を実現するためにもう一段スピードを上げたい」と山内氏は話す。

グローバルでは、小口貨物に注目した中国~ASEANのクロスボーダー輸送サービスを展開。グループのOTL社(マレーシア)のネットワークを軸に、エリア毎の有力プラットフォーマーへの出資などを通じて、ラストワンマイルネットワークを整備する。国際標準規格PAS1018の策定、取得を進めた小口コールドチェーンも「アジアで価値を持つキラーコンテンツ」(山内氏)として利用増への期待を寄せる。
法人領域に対しては3PLでなく、中小企業などへの業界別プラットフォームを提供し、混載差益や倉庫の高効率稼働による高収益モデルをめざす。

新技術でSCMの高度化も提案

新技術の活用は、昨年4月に発足した「デジタル・イノベーション推進室」を中心に研究を進める。データ分析による集配ルートの最短化や幹線輸送の配車といった業務効率化に加え、荷主企業がこれまで個別に管理していたサプライチェーン全体のデータを一元管理することで「最適な仕組みをはじき出し、サービス価値を向上することができる」と山内氏は可能性を示唆した。
(2018年3月15日号)


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