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物流のIoT化で「配送4.0」実現=ニチガス

2019.05.28

日本瓦斯(ニチガス、本社・東京都渋谷区、和田眞治社長)では、LPガス事業で輸入基地からユーザーまでの物流をIoT化により最適化する「配送4・0」プロジェクトを推進する。2020年の稼働を目指し、神奈川県川崎市川崎区浮島町に新設する世界最大級のハブ充填基地「夢の絆・川崎(仮称)」(写真)では最先端のICT、IoT技術を採り入れ、完全無人オペレーションに挑戦する。独自のクラウドシステムとデジタルトランスフォーメーション(DX)を実装した一連の物流インフラをプラットフォームとして他社にも開放し、LPG託送事業を推進。なお、これらのICT技術は複数の特許を出願中だ。

独自のLPガス事業モデル、物流改革を推進

ニチガスグループでは関東圏を中心にガス(LPガス、都市ガス)、電気の供給、ガス機器・住宅機器の販売、住宅設備機器のリフォームなどを手掛ける。関東圏におけるシェアはLPガスでトップ(13%)、都市ガスでは第3位(4%)でともに巨大な成長余地を残している。17年4月の都市ガスの小売り自由化以降、都心部での都市ガス事業への参入や、18年11月以降の電気・ガスのセットプランなどにより顧客数を急激に伸ばしている。

背景には、価格競争力の強さがある。ニチガスのLPガス料金(一般小売価格)は競争が激しい関東圏でも平均より15%以上安い。価格競争力を高めるため、充填、配送、小売までを自社で完結、一括管理する独自のLPガス事業モデルを構築。併せて、LPガス料金構成の3割を占める物流コストを削減するため、グループの日本瓦斯運輸整備とも連携しながら物流改革に取り組んできた。

輸入基地に近いハブ充填基地で充填作業を集約

一般のLPガス事業者は、ユーザーに近い内陸部に小規模の充填工場を点在させ、湾岸部の輸入基地から日中にローリーで輸送。距離が長く、日中は道路が混むためローリーは1日に2往復程度しかできず、運べるガスの量が限られてしまう。充填工場が小規模だと充填作業を自動化しにくく、また、充填工場からユーザーへの配送も配送員個人の判断と都合が優先され、その結果、非効率になっているケースが多い。

これに対しニチガスでは、輸入基地の近接地に大型ガス充填基地(「ハブ充填基地」)を確保し、ユーザー近隣に配送中継拠点となる「デポステーション」を配置する。京葉地区で運営するハブ充填基地(千葉市美浜区)は輸入基地から車で3分の立地にあり、月間1万tの充填能力を持つ全自動回転充填機による無人作業を実施。充填されたボンベはハブ充填基地であらかじめトレーラに積み込んでおく。

トレーラをヘッドにつなぎデポステーションへ出発するのは夜間。渋滞を避けてデポステーションに到着すると、ユーザーから回収したボンベが積み込まれたトレーラが用意されており、ヘッドはトレーラを差し替えてハブ充填基地に戻る。充填されたボンベは請負契約にある小型トラックが引き取り、ユーザーに配送。各地のデポステーションは24時間365日体制で遠隔監視システムにより無人化している。

効率高め、配送員が“稼げる”仕組みに

ユーザーへの配達および保安業務で重要な役割を果たしているのが「雲の宇宙船」と称するニチガスのクラウドシステム。ユーザーのガスメーターにQRコードを貼付し、スマートフォンで読み取ることでユーザーの最新情報をリアルタイムで把握し、次回配送日時を予測。配送員には翌日の配送先リストをデータ送信し、カーナビゲーションと連動し、最適な配送の順番とルートを指示。運転に集中できる環境を整えている。

ドライバー不足が深刻化する中、ガスボンベのように手荷役を伴う配送業務は敬遠されがちだが、配送効率を高めて“稼げる”業務にすることで配送員の確保・定着につなげている。「20代、30代で年収が1000万円を超える配送員も多数在籍している」とエネルギー事業本部エネルギー事業部資財・調達課兼物流オペレーション課兼夢の絆準備室の岩村健司上席課長は話す。

請負の配送員の定着に向けた工夫のひとつが、「エリアローテーション制」。1つのエリアを複数のエリアに分け、1週間で7~8人の配送員をローテーションさせる。エリアによる不公平感をなくすと同時に、休みを取りやすい環境を整えることで定着率を高めている。

“世界初”LPG版DXを実装

事業連携を見据えた新たなハブ充填基地として、輸入基地に近い神奈川県川崎市川崎区浮島町に約9万5000㎡の土地を取得。世界最大級の大型LPガスハブ充填基地「夢の絆・川崎(仮称)」を建設する。最新のICT、IoT技術を組み込み、LPガスタンクへの受け入れ、ガスの協同充填、トレーラへの積載、耐圧検査等の完全デジタルトランスフォーメーションによる世界初の完全無人オペレーションに挑戦する。

物流工程にはRFIDや画像認証技術など最新の技術を活用。ガスボンベにRFタグを貼付し、ハブ充填基地、デポステーションに読み取り装置を設置し、トレーサビリティーを実施。車両のGPSによりリアルタイムで配送経路や位置情報を把握する。顧客のガスメーターにはNCU(network control unit)を取り付け、遠隔から1日に24回自動的に検針できるようにする。

これらの技術によって抽出された車両位置、ハブ充填基地でのタンク残量、ボンベ在庫、充填機稼働状況、デポステーションでのボンベ在庫、顧客の消費ガス量データに加え、ガスの消費に影響を及ぼす気温・天候などのデータを、ソラコムの通信技術により協働で開発する新システム「ニチガスストリーム」に取り込み、「新・雲の宇宙船」によるAI解析を通じてリアルタイムに配信していく――という構想だ。

岩村氏は、「これまで『予測』に基づいて構築してきた物流の概念を、リアルタイムの『実績』に基づくものに変えていく。”世界初”のLPGデジタルトランスフォーメーションを実装し、圧倒的なコスト競争力とビッグデータで、LPG託送事業を収益化させる」と意欲をみせる。
(2019年5月28日号)


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